2013年12月:統合報告書の枠組み(Framework)公表

昨年12月、予定されていた統合報告書の枠組みが正式に公表されました。Frameworkと呼ばれる報告書のガイドラインに加え、ドラフトから結論に至った経緯を説明する資料とサマリー(Q&A)の3つの出版物が同時に公表されています。

統合報告書は、その定義や目的についても様々な意見があり、当初は企業の財務資本の分配を評価するうえで役立つものという記載がありましたが、最終版では、「その組織がどのようにして価値を創造しているか」を説明するものであり、「財務及びその他の情報が含まれる」としています。

資本(Capital)を以下のように分類して、それぞれの資本を活用して組織が持続的な経営をしているのかを示すものという概念が示されています。(正式な和訳ではないので、原文をご参照ください。) 続きを読む

欧州議会で非財務情報の開示義務法案が承認

昨日の欧州議会で、環境・社会・労働側面やガバナンスなどの企業の非財務情報の開示を義務付ける提案が承認されました。

従業員500名以上の大企業や上場企業に、情報開示の拡充を義務付ける方向で、今後、国際的な指標などを踏まえて、開示拡充に向けたガイドラインなどが策定されるようです。さらに2018年以降は、大企業の国別の税額・利益・補助金などの開示を義務付けるかどうかも検討することが追記されています。

企業経営の大きな方向性ではありますが、企業にとっては、これまでと違う種類の情報を開示することになりますので、大変な時代になりつつあります。

法案内容については、4月に掲載したブログもご参照ください。

 

持続可能性報告と財務報告の一体化に向けて

サステナビリティ報告、CSR報告書と財務報告の一体化となる統合報告に向けた動きは国内でも進んでいますが、先週、欧州で財務責任者(CFO)が持続可能性に向けて議論するCFO(財務責任者)の会が発足しました。

イギリスのチャールズ皇太子のもとで、大手企業10数社のCFOが集まり、今後、環境や社会面の課題解決やビジネスをどのように企業戦略や財務報告に結びつけるかという議論を進め、統合報告や自然資本に関する具体的なガイドラインの作成などに取り組むとのことです。

今後1年での実施事項は以下の通りとなっています。

  • 資本的支出の評価に持続可能性の視点を入れるなど、意思決定の透明化に向けたガイドラインの作成
  • 自然資本、社会資本の評価や計測の方法の開発に向けた貢献
  • 持続可能なビジネスモデルに関する投資家の関わりの改善

統合報告や自然資本の動きも踏まえてか、または政策的な影響の大きい公益事業のためか、水やユーティリティ、不動産関連などインフラ系企業が多い印象です。メンバーにはイギリス企業だけでなく、フランスのダノンやアメリカのWalmart等も含まれています。

日本では、環境報告→CSR報告→統合報告と徐々に移行している企業が多いなか、現状では、CSR報告書を複数部署で作成している企業が多いと思われます。財務責任者がCSRや環境・社会面の開示について考える会というのは、まだあまり聞いたことがありません。

少し先のことのように思われますが、CSR報告と財務報告が本当の意味で統合するためには、やはり財務責任者の見方は非常に重要で、それによって初めて本当の意味の持続可能なビジネスになるのでしょう。イギリスではこの動きに本格的に取り組んでいるという見方ができそうです。

 

金融業界のサステナビリティ_SASBがドラフト公開

先週、金融セクター7業種のサステナビリティに関する重要項目案が、米国のSASBから公表され、12月末までパブリックコメント期間になっています。

環境面については、おもに以下の3つのポイントが含まれています。

  • 融資や投資における信用リスク評価に、環境・社会・ガバナンスに関する要素を統合すること(投融資)
  • 担保不動産等の環境リスク管理(不動産担保ファイナンス)
  • 環境リスクの影響(保険)

 春頃のブログで掲載しましたが、米国では中小金融機関の担保不動産審査時における環境リスクの評価も明文化され、環境リスク評価が広がりつつあります。また今月6日に公表されたASTMの環境サイトアセスメント(E1527-13)などにより、政府データの確認や揮発性物質(Vapor Intrusion)などのリスク管理も拡充され、金融機関の環境リスク評価の仕組みも進化していくでしょう。

市場の成長を維持しながら、仕組みを成熟化させていくには、ルールをわかりやすくし、新規参入者に門戸を開くことも重要になると思われます。

FINEV座談会では異業種の皆様に参加いただき、関連分野の成長と進化につながる情報交換を進めていきたいと思っています。

 

 

自然資本の政策への組み入れを承認したイギリス議会

先週、イギリス議会は、自然資本(Natural Capital)を今後、国の政策や会計等に組み入れる方向を固めたようです。議会の議論については公開されています。

自然資本は、水や土壌、エネルギーなどの自然資源の価値を評価し、それらを保全しながら、経済社会の中で持続的に活用していくことを目指しています。そのために、まず自然資本の実態をきちんと把握し、評価する枠組みを確立することが提唱されています。こうした取り組みを支持する世界の約50の金融機関が自然資本宣言(Natural Capital Declaration)を採択しており、日本では三井住友信託銀行が参加しています。

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バングラディッシュとインドの衣料品工場に関するレポート

今年初めに大惨事があったバングラディシュについて、”従業員の仕事の視点と企業の生産性”の観点からまとめられた報告書が公表されました。インドとバングラディシュの繊維工場を対象にした労働環境と生産性向上に向けた研修プログラムの前後の成果に関する調査結果で、わかりやすい指標をベースに定量的なデータも掲載されています。

ここでは調査結果を分析するために、以下の指標を活用しています。

経営の指標;効率性、出荷率、社員の欠勤率

従業員の指標;手取り給与、時給、退職率

よい経営の指標と、従業員にとって良い仕事の指標は、必ずしも一致しない場合もありますが、以下の研修プログラムを実施した結果、バングラディシュとインドの双方で、生産性が向上し、退職率は大きく減少した結果となっています。

研修プログラムは、以下の4つのほか各種コミュニケーション、意識改革などが含まれているようです。

①人事

②生産:生産効率の向上

③品質

④防災

報告書では、”よい会社は、従業員に対してよい仕事を提供する”というメッセージが様々な側面から出ています。日本ではこれまでCSRの中でも、外部に発信する情報では環境面に重みが置かれていました。環境経営の動きが始められてから20年超となり、グローバル企業では環境経営は、業種や規模、経営方針などで多少の差はあっても、ほとんど当たり前のアジェンダとして定着してきています。

日本企業のグローバル化が加速している昨今、価値観の異なる文化圏のなかで、従業員とよい関係を築いていくことはますます重要になり、CSRの情報発信も少しずつ社会面にシフトしてくるのではないかと思われます。上記報告書は、シンプルな指標を活用していますが、とてもわかりやすい内容になっています。数値、コメント、文章など興味深い内容で、デザインもとても読みやすいので、ちらっといくつかのコメントを見るだけでも参考になります。

SASB 技術・通信セクター素案公表

アメリカのSASB (Sustainable Accounting Standard Board)から技術・通信セクターのサステナビリティに関する開示事項・重要性事項等に関する素案が先週公表されました。来年1月まで90日間のパブリックコメント期間だそうです。

以下の業界が対象になりますので、日本にも先進的なCSRを進めている企業が多い業界です。米国上場企業だけでなく、開示内容や開示方法を決める際の参考になりそうです。

  • Electronic Manufacturing Services & Original Design Manufacturing (電子機器製造サービス等)
  • Software & IT Services (ソフトウエア・ITサービス)
  • Hardware (ハードウエア)
  • Semiconductors (セミコンダクター)
  • Telecommunications (通信)
  • Internet Media & Services (インターネットメディア)

重要性に関する要約表はこちらに掲載されています。

SASBのヘルスケアのガイドライン発行:秋には金融業界の予定

業界別のESG開示ガイドラインを開発している、米国のサステナビリティ会計基準審議会(SASB)からヘルスケア業界(6分類)の暫定ガイドラインが発行されました。バイオテクノロジー、医薬品、医療機器、医療サービス(デリバリー)、医薬品販売、マネージドケアの6分類です。

こちらから登録するとダウンロードできるようになっています。

その他の業種でも検討が進められており、今後のガイドラインの開示日程や活動計画によると、今年11月には金融業界のガイドラインが開示されるようです。

SASBの動きは、企業の非財務報告の位置づけを財務報告のように業界内で比較可能にしていこうという重要な動きの一つです。

今回のヘルスケア業界のガイドライン発行にあたっても、米国の証券取引委員会(SEC)ルールに基づく上場企業の財務報告10-Kレポートの中に開示する事例の紹介もされています。まだ全体的に試行段階ですが、各業界の基準策定には主要企業が参加していることから、少なくとも米国では徐々にデファクト・スタンダードになっていくことも予想されます。

持続可能性報告・CSR報告のガイドラインであるGRIのG4の重要性に関する考え方を踏まえても、CSR/IR/広報関連に加え、各項目の該当部門との連携がより重要になってくるでしょう。今年はCSR関連のガイドライン変更などが続いて大変ですが、これから年末に向けて統合報告のガイドライン開示も予定されており、担当部門の方は、しばらく新たな情報収集が忙しくなりそうですね。

SASBの活動等については、過去のブログに概要を記載していますのでご参考まで。

投資家から見たCSRレポート

GRIの新たなガイドラインG4の発行や、今年末に予定されている統合レポートのガイドラインなどの方向性を受け、CSRレポートの改定や、環境報告書(環境・社会報告書など)の内容や構成の見直しを検討している企業が増えているのではないでしょうか。

企業価値に占める無形資産の割合は、過去30-40年で大きく増え、企業価値の8割が無形資産から評価されるようになってきています。一方、従来型の財務報告では、十分に無形資産が説明・開示されていないため、CSRレポートをはじめとする非財務情報の重要性は増しています。

欧州の投資家からみた非財務報告書の現状や課題、期待するものについてまとめられた報告書が公表されました。投資家に対しても評価されやすいCSRレポートを作成するのに参考になりそうです。

報告書では、現状の非財務報告は不十分であるというメッセージが一貫して示されていますが、そのなかでも非財務報告として「最も参考にするのは、各社のCSRレポート」ということで、統合レポートなどが定着するまで当面は、CSRレポートは重要な情報源であることは間違いなさそうです。

また、本調査によると、欧州委員会が今年4月に発表した非財務報告の義務化法案に記載されている内容に加えて、以下の内容を開示することを期待しているとのことです。
(欧州委員会の非財務報告義務化については、こちらをご参照ください) 続きを読む

インドの会社法改正法案とCSR

今週は国会が閉会し、環境関連では、放射性物質を大気汚染防止法や水質汚濁防止法の規制に含める法案などが成立しました。*環境省関連の法案制定状況はこちらから。

今年は、先月のGRI:G4に加え、統合報告ガイドラインも発行される予定となっており、法律だけでなく様々なCSRのルールが更新される予定となっていますが、アジアではCSRに関する法改正や制度変更の取り組みも活発になっています。

インドでは、昨年制定された上場企業への規制のなかで、上位100社に対して、今年度からCSR報告書の作成を義務付けられるようになっていますが、さらに、会社法を改正して一定規模以上の企業に対してCSRの推進を義務付ける方向性が具体化してきています。

昨年インドの下院を通過して、1956年以来の大きな改正になるといわれているインドの会社法の改正版(The Companies Act 2012)では、一定規模以上のインド国内企業すべてに対し、社内にCSR委員会を設置してCSR方針を制定して開示し、毎年、前年の純利益の2%をCSR方針に沿った環境保全、機会均等、教育などの取り組みに使うことを求めており、その支出の実行ができない場合には理由を開示することとしています。

今年度末頃まで上院を通過して制定する方向という見方もあり、改正法が制定されれば、インドで活動する国内外企業へ一定の影響がでてくるといわれています。法案はこちらの135 Corporate Social Responsiblityの項目などに記載されています。

海外グループ会社がある場合や今後の進出予定、主要なサプライヤーの評価など、関連業務がある方々は当面注視が必要になりそうです。

 

 

 

 

 

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