環境保険:拡大の期待と使う側の留意点

2011年から始まっている 国連環境計画の持続可能な保険原則のメンバーが広がっており、現在40社が採択し、その資産運用規模は約600兆円(6兆ドル)に上るということです。

日本の損害保険会社大手3社も採択しています。

資産運用におけるESG配慮である責任投資原則(PRI)やプロジェクトファイナンスの赤道原則(EP)などは以前から広がっていますが、リスク管理のソリューションを提供する保険分野でのESGの広がりは、今後も世界での活動が増える中で不確実性への対応に向けて期待が高まります。

土壌汚染など環境リスク対策に関する保険は、日本ではなかなか広がっていませんが、すでに約2,000億円の市場まで発展しているアメリカでも、いろいろな課題もあるようです。その一つは、不動産取引などに付帯して活用されている環境汚染賠償保険などの補償対象についてです。”保険と免責条項があれば大丈夫”ということではないことの再確認です。

今年初めにアメリカ東部のマサチューセッツ州の施設を対象にした、担保不動産の引き渡しについて、環境汚染の免責事項と環境保険に関する金融機関の訴訟がありました。

日系の金融サービス会社が原告となっていた本ケースは、最近環境関連の専門家のなかでも今後に留意すべきケースとして取り上げられています。

対象不動産には環境保険がかけられていたうえ、当事者間で環境免責事項の合意があったのですが、原告である日系金融サービス会社が実施した環境調査の費用は、同社のリスク管理であるとして、これらの適用にならないというものでした。

この判例では、環境保険の適用範囲や費用の支払い条件について、争点になったものです。

上記の訴訟ケースは、金額的にも小規模な調査費用のケースですが、米国のように環境保険が普及している地域でも、改めて様々な問題を提起しています。当たり前のこととはいえ、保険証書のコピーを入手することや免責要件や範囲の事前確認が重要であることが提起されています。

ケースの詳細は、こちらから確認できます。

日本でも、環境汚染に関する保険が広がっていない理由の一つは、環境保険に多数の除外項目があり、一般的にはわかりにくい保険であることが挙げられます。環境保険は、敷地外や第三者に対する汚染の賠償費用や、業務の中断に伴う費用を補償するものもあり、有効に活用すれば、より重層的なリスク管理をすることが可能になります。一方、地域の法律とともに設定されている約款をきちんと理解できていないと、カバーされていると思っていた費用が対象外であったり、費用請求要件が設定されているなど、専門的な知識がないと理解しにくい要件が多数記載されていることが多くあります。米国では、ブローカーと呼ばれる専門的な仲介者が、複数の保険会社の商品を比較したり、個別案件に合わせてカスタマイズするサービスが行われています。

アメリカの環境保険市場では、環境保険そのものの収益性が高くないために商品を維持すること自体が難しいといわれていた時期もありました。今は、補償期間も10年、最大補償額も200億円まで、多様な商品がでて競争が激しいようです。保険はリスク管理ツールの一つとして、活用する側もうまく活用するという視点が大切のようです。