各国政府の脱炭素政策の動きと共に、大手企業においても持続可能な社会に向けた自主的な取り組みが増えている。
2021年2月、アップル社は、将来的にiPhone等の製品とその梱包材について100%リサイクル素材を使用する方針を発表した。アップルは昨年、すべての製品について2030年までにそのライフサイクル全体でカーボン・ニュートラルを達成する目標を掲げているが、リサイクル方針も拡充し、優先的にリサイクルする14種類の鉱物・素材等を明示した。
携帯端末や電子機器には、レアアースを含む重要な鉱物が含まれており、現在中国がその産出の大部分を占めている。アップルは、アメリカテキサス州に鉱物回収・リサイクルのための研究施設を持ち、複数の鉱物を回収するロボットを開発しており、毎年その回収鉱物の種類を増やしている。
コカ・コーラ社は、欧州で2040年までにカーボン・ニュートラルを達成する目標を掲げており、北米では、100%リサイクル素材のペットボトルを使用する方針を発表した。コカ・コーラは、2030年までに50%リサイクル素材を世界全体で使用する方針を打ち出していましたが、目標を高く設定した。
異業種での連携も増えており、食品関連企業では、食品廃棄物から熱回収する事業に共同参画するケースもある。
また、こうした大手企業を顧客にもつコンサルティング会社や監査法人では、事務所などで使用する電力消費を相殺し、カーボン・ニュートラルを早期に達成する動きも広がっている。4大監査法人の一社であるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、2030年までにネットゼロを達成することを目標として発表しており、アーンスト・アンド・ヤング(EY)は、2025年までにカーボン・ニュートラルを達成するとしてる。事務所や移動に伴う排出量が大部分となる専門職の企業では、社員のリモートワークを組み合わせて、飛行機の移動を控えると共に、オフィスなどでの電力使用を100%再生可能エネルギーに切り替え、残りの排出については、オフセットするとしている。
大手企業の脱炭素やサーキュラー・エコノミーのための取組は、各社の本業に関わる領域に進んでおり、サプライチェーンを通じて世界に広がっている。
3月初旬には、国際会計基準を策定するIFRS財団が気候変動を優先にサステナビリティ報告基準のための委員会を設定する方向性を発表した。米国証券取引委員会でも気候変動関連の情報拡充の方向性を検討している。気候変動をはじめ、これまで自主的な対応が多かった分野においても、規制による義務化や市場の選別を見据えた企業の取組が進んできているといえそうだ。
*本稿は環境新聞(2021年3月17日号)に掲載されました。