脱炭素に向けた変革が続く一年に

2020年は、新型コロナウィルスによる社会・経済への影響により、世界が大きく変化する一年となったが、環境関連の分野でも、これまで以上に大きな動きがみられた。

一つは、脱炭素に向けた動きである。2019年末に欧州がグリーン・ディールとして発表した2050年のカーボン・ニュートラル(CO2排出実質ゼロ)政策は各国に広がり、日本でもその方針が示されることになった。新型コロナウィルスによる自粛や産業活動の停止に伴い、世界全体のCO2排出量は減少に転じたものの、2050年に向けた削減にはより大きな社会変革が必要になる。各国でガソリン車の新車販売を限定するなどの方針も発表されており、電気自動車への異業種からの参入も増えている。

もう一つの大きな動きは、企業と金融機関の経営におけるESGの浸透だ。コロナ禍において世界的にESG投資やグリーンボンド(環境債)が大きく拡大すると同時に、投資や企業評価において、気候変動・環境・ESGを組み入れる動きが確実に広がりつつある。

その相乗効果ともいえる動きの一つは、ESG情報の開示ガイドラインを策定するSASBとIIRCの統合、そして、国際会計基準の策定に関わるIFRS財団もESG開示基準の策定を検討していることである。

いずれの動きも今後数年から10年程度の間に各国で制度化などが進む中長期のテーマであるが、大きな流れとしては変わることがない方向性であろう。

気候変動政策を先行実施しているアメリカ・カリフォルニア州では、サンフランシスコ市で今夏から新築ビルに天然ガス・パイプラインを設置することを原則禁止する条例が施行される。すでに同州内の40近い自治体が同様の条例を制定しているが、2045年にカーボン・ニュートラルを目指す同州において、施策を逆算して考えると当然のことのようだ。すなわち、2021年に建設される建物の大部分は、2045年にも存続する可能性が高いことから、低炭素とはいえ天然ガスを維持して使用することは今から禁止することが適切という判断だという。

電気自動車の拡大は、税制にも影響がある。アメリカ議会調査局は、ガソリンなどに課される燃料税が減少することにより、これらの税収をもとに高速道路等の整備財源としている基金の収支が、今後10年で20兆円近く不足するとの試算を示している。ガソリン車の減少は各州の税収にも影響があり、今後電気自動車の拡大と共に税制の改訂も行われることが予想されている。

このように、脱炭素に向けた社会インフラの変化や規制は、これまでの様々な仕組みに影響を及ぼし、技術やサービスのイノベーションと同時に、移行期の変化を受け入れる社会経済的な余力も必要になる。

安全で豊かな社会を維持しながら変革を進めることは容易ではないが、2021年も、世界全体では脱炭素と持続可能な社会に向けた変革が続く一年になりそうだ。

*本稿は、環境新聞(2021年1月20日)に掲載されました。