米国環境ビジネス会議報告(下)

従来からある環境ビジネスの一つに、有害物質等による汚染の浄化や対策管理がある。

米国では、水質や土壌汚染に対して汚染者やその関係者に対して厳しい管理責任を課し、また厳格な罰則が課される。また、法令違反に応じた日割り罰金や和解金などの金額も世界で最も高額となっており、そのため、汚染予防や汚染浄化対策に関わるビジネス規模も大きい。

アスベストやフロンなどの有害物質対応ビジネスはすでにピークを越えているが、現在でも約2,000億円規模の市場があり、建物内の毒性カビといわれるモールドや鉛塗料の除去ビジネスは続いている。

土壌・地下水汚染については、再開発を通じた事業が増えており、約9,000億円の市場規模となっている。汚染対策については、リスクに応じた規制が課される。新たに有害物質のリスクが確認されると、これまで安全であるとして浄化完了とされた土地等に、再調査命令が課せられ、対策措置が求められることもある。

現在、アメリカの環境関係者の間で大きな注目となっているのは、フッ素系化合物のPFAS(ペルフルオロアルキル酸およびポリフルオロアルキル酸)だ。1940年代から製造され、テフロン加工製品の製造、消火剤、金属メッキなどを含め広く商業利用されてきたが、残留性の有害性が懸念され、今年2月に環境保護庁(U.S.EPA)が今後の規制強化に向けた実施計画を策定した。

EPAでは、飲用水最大許容値等の策定に加え、土壌・地下水汚染の浄化、日本のPRTRにあたる毒性物質登録簿(Toxic Release Inventory, TRI)へ追加し、毒性物質管理法(TSCA)のもとで、流通や使用禁止も計画している。州レベルでは規制が始まっており、カリフォルニア州、マサチューセッツ州などを含め、10以上の州で飲用水基準の策定、地下水浄化基準の策定、含有製品の規制や情報開示などが始まっている。訴訟も増えており、3M社はミネソタ州の住民から飲用水に同物質が含まれていたことに関連して提訴され、2018年に約900億円の支払いをすることで和解した。大手化学メーカーデュポン社も他州で同様の和解をしている。

PFASについては、日本国内でも5月に一部テレビ報道されていたが、米国では、これらの物質で汚染されている土地は5万か所以上と推定されており、そのうち深刻な汚染が43州に600か所あると試算されている。今後、米国では、この汚染浄化や住民対応が増えるとみられており、法制化の動向等に留意する必要があるようだ。

今回のヒューストンの会議で、日本企業の技術やイノベーションについて評価する声もあった。日本と米国とは、法制度の相違等があり、環境ビジネスにも相違はあるものの、環境ビジネスの経営者や管理者層は、環境保全や持続可能性という大きな共通項がある。これから日本の技術が活用できる分野もあり、また米国にはITや金融、保険、最新技術を活用したサービスなど、日本でまだ発展していない環境ビジネスもある。

気候変動・温暖化に加え、海洋プラスチック問題など、地球規模で対応すべき環境問題が増える中、環境ビジネスにおいても、日米の協業が進むことによって、アジア各国や世界の環境保全につながる機会も増えるであろう。弊社では引き続き米国の環境ビジネス情報を提供すると共に、日本の環境ビジネスの状況を米国に紹介する機会も広げていきたい。

【PFAS基準が策定されている主な州】
(単位:ppt: 一兆分の1、parts per trillion in water) *州により、飲用水、地下水等異なる。

その他の基準
(70ppt以上)
EPAの推奨する基準
(70ppt)
より厳格な基準
(70ppt未満)
  • ノースキャロライナ州
  • テキサス州
  • アラスカ州
  • コロラド州
  • コネチカット州
  • メイン州
  • マサチューセッツ州
  • ミシガン州
  • カリフォルニア州
  • ミネソタ州
  • ニュージャージー州
  • バーモント州

(出所)米国環境ビジネス会議(2019)資料より作成

*本稿は環境新聞2019年6月19日号に掲載された、筆者の米国環境ビジネス会議への参加報告です。