米国の環境政策と産業界が懸念するPFAS動向

2019年11月にワシントンDCで開催された環境ビジネス会議では、米国の環境ビジネスや環境政策の動向に加え、原子力政策・廃炉、政府の動向について、ホワイトハウスや議会の現役の責任者が、本会議に立ち寄って重点項目や関心テーマを紹介した。

議案や政策には、近代化する(Modernization)という表現が使用されており、これまで汚染管理や自然環境の保護などを規制していた環境法制度や仕組みを、気候変動やそこから生じる自然災害の強靭化に向けた現代の課題にどう取り組むか模索がなされているようだ。また、環境によい(Green/Clean)ものの意味(Taxonomy)についても、多様なニーズがあり、GHG排出量低減に加え、安定して信頼できる、安全で費用感がある、効率性が高い等、環境保全と自然災害、その持続可能な活用や仕組み等の両立が求められている。

国家環境政策法(NEPA)に基づき、ホワイトハウスに設置されている環境政策委員会のMary B. Neumayr委員長からは、現政権では経済成長と環境のバランスを重視しているとの説明があった。現在の優先事項として、大気関連の環境法制執行の効率化、許認可の短縮化に加え、水インフラに重点が置かれているという。

また、国防省の環境管理を管轄する陸軍工兵司令部(Army Corps of Engineer, ACE)からは、先進地球物理分類の仕組みを開発し、生態系への影響の少ない掘削・除去・浄化方法等を適用することで、30%以上の費用削減が可能になっていることが紹介された。

現在、産業界が最も懸念している喫緊の環境テーマの一つは、PFAS(パーフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)である。製造工場やエネルギー施設、空港等を運営、所有する企業だけでなく、環境浄化ビジネスを行う実務家の間でも最も大きなテーマになっている。

環境保護庁(EPA)でも調査中で、規制の結論がだされていないにもかかわらず、すでに大手企業が住民との和解に1,000億円規模の支払いが合意されているなど、そのスピードは、過去のアスベストやPCBなどの汚染物質の対応と状況と異なるようだ。

PFASの大きな特徴の一つは、アスベストの断熱材やPCBにおける含有機器などのように、特定の使用や製品等に含有されるものだけでなく、非常に多岐にわたる産業プロセスに使用されており、あらゆる場所にあることが挙げられている。また、飲用水への影響により、人の健康被害だけでなく、農畜産物への影響についても懸念され、訴訟も増えている。

問題解決の方向性が見えない中での急速な進展が進んでおり、2019年11月下旬に、このPFASの問題をテーマに公開される映画「Dark Waters」の予告編も共有された。

現段階では、企業が住民と合意した多額の和解金の多くは、住民への補償となっており、実際の汚染物質の浄化費用は別途かかるため、これらの費用をどのように支払うことができるのかも課題となっている。

環境ビジネスの関係者では、企業や社会全体に訴訟等の過度な負荷がかからずに、適切に健康被害等へのリスク管理ができる枠組みをつくるべきではないかという問題提起もなされている。

*本稿は環境新聞(2019年11月20日)に寄稿致しました。