脱炭素政策の高まりで、気候変動への対応を意識した取り組みが様々な分野で求められる中、アメリカ環境保護庁は昨年、気候変動に対応した土壌汚染対策のマニュアルを公表した。
このマニュアルは、従来から取り組まれていた浄化対策におけるCO2排出量の削減にとどまらず、土壌汚染の調査から浄化対策、搬出土壌の処理、浄化後の土地の再開発における建物やインフラ整備まで、気候変動の影響を緩和し、また甚大化する自然災害に適応するような取り組みを紹介している。
アメリカでも熱波や豪雨・豪雪、ハリケーンなどによって浸水等のリスクも増えている。工場跡地やその周辺地域の汚染浄化や再開発をするにあたって、従来の土壌・地下水汚染対策だけでなく、気候変動に対応した取り組みを進めることが重要になっているためだ。
バイデン政権では、気候変動対策を全省庁の取組に入れるように指示しており、各地域で進められている手法や事例が多数紹介されている。
例えば、フェーズ1の調査段階においても、地域の気候や洪水・干ばつリスクなどを評価に組み入れ、再開発計画に反映することを推奨するとともに、フェーズ2調査や浄化手法の検討においては、再生可能エネルギーの利用によるCO2排出量の削減や、地域の自然的特性に応じた気候変動適応への考慮、また資材の再利用や不要な運搬の削減なども提唱している。
浄化工事においては、これまでもCO2排出量の少ないグリーン・リメディエーション等の活用が推奨されていたが、それだけでなく浄化や再開発で搬出される土壌の再利用等も推奨しており、ニューヨーク市で進められている土壌バンクの取組も紹介されている。
再開発後の街づくりにおいては、建物のグリーンビルディング化に加え、地域のインフラとして雨水の再利用や舗装の工夫などを取り入れ、浸水リスク等を軽減するグリーンインフラも自治体の政策等と共に紹介されている。
拡大するESG投資の基盤となる、欧州の環境事業の定義づけ(タクソノミー)においても、気候変動の緩和・適応と共に汚染管理と予防の取組は重要な環境指標となっている。また、TCFDをベースに進む気候変動に関する情報開示も進み、投資家や事業者にとっても、汚染対策を進めるうえで気候変動への対応が不可欠になってきているといえるだろう。
日本では今年、土壌汚染対策法の制定から20年を迎える。持続性の高い社会に向けて、土壌汚染対策においても気候変動への配慮を進めるためのマニュアル化や、必要に応じた制度や枠組みの調整を進めることが期待される。
*本稿は、環境新聞(2022年2月16日発行)に掲載されました。