バイデン大統領が各国首脳との気候サミット開催の前日、欧州では、サステナブル・ファイナンスに関連する規制等がいくつか採択された。
一つは“EUタクソノミー気候委任法(EU Taxonomy Climate Delegated Act)”と呼ばれるもので、様々な業種の事業活動について、気候変動の緩和や適応に貢献しているか、また重大な環境面の悪影響がないかを評価する指標を示したものであり、いわゆる何が“グリーン”な事業かを欧州委員会として規定したルールである。
対象となっている事業は、気候変動への影響が比較的大きい製造業、建物やエネルギー事業区分が多いが、このほか交通、IT、金融サービスなどに加え、専門職、教育、文化芸術事業なども含まれており、社会経済全体に気候変動に向けた対応を進めようとする欧州の姿勢が伺える。しかしながら、原子力や天然ガスなど、まだ評価の途上にあるものは含まれておらず、農業についても対象から除外されているなど、短期間での調整が難しい項目については、時間をかけて策定する方向となっているようだ。
また、重大な環境面の悪影響の有無の判断は、すでに公表されている6つの環境軸に沿い、主に欧州における規制や政策に基づく指標や数値基準等が示されている。
この“EUタクソノミー気候委任法”に基づく事業活動に関する定義は、同時に採択された、企業のESG情報の開示を推進する“新企業サステナビリティ報告指令”によって、より大きな意味をもつ。
EUではこれまでの“非財務報告指令”に基づき、大手企業に対してESG情報の開示を義務付けているが、対象となる企業は上場企業や金融機関等のうち従業員が500名以上の企業を対象としており、約11,600社にとどまっていた。今回、この従業員数の基準がなくなり、原則としてすべての上場企業と大企業を対象にすることになったため、対象企業は約50,000社に広がる見込みとなっている。
これらの対象企業は、上述タクソノミー規制の基準に基づき、自社の事業のうち、“グリーン”な事業の割合を開示することが求められており、また金融機関については投融資の資産等のうち“グリーン”な事業の割合の開示が求められる。金融機関や大手企業と取引のある中小企業に対しても、より簡易な基準でのESG情報の開示を推奨する方向となっている。
これらの開示情報はデジタルの様式で提出することが求められ、投資や融資の判断情報として活用しやすくする方針となっている。今後の手続きが予定通りに進めば、2023年度分の開示から開始され、2024年には各社の情報が開示される予定となっている。
欧州のタクソノミー規制は、これまで比較が難しかった環境を含めたESG情報について数値による比較可能性を高めるものであり、どの企業がどのくらい環境配慮事業を行っているかを一目で判断する方向性に導くものとなっている。指標や基準、法対象は欧州域内の企業となっているが、投融資や取引を通じてEU域外にも影響を及ぼすことになりそうだ。
*本稿は環境新聞(2021年5月19日号)に掲載されました。