2019年はG20をきっかけに、わが国でも海洋プラスチック汚染が環境問題の中心的な課題の一つとなり、大手企業が2030年に向けたSDGsへの取り組みを本格化する一年となった。
海外の様々な機関などが掲げる2020年の環境・サステナビリティのキーワードには、大きく3つの要素が含まれている。第一は、気候変動に向けた低炭素・脱炭素化である。豪雨や異常気象などによる影響が保険業界にも影響を及ぼすようになっており、先進国ではインフラ強靭化も共通のテーマになりつつある。第二は、プラスチックをはじめとする循環型社会の構築、すなわち欧州の提唱するサーキュラー・エコノミーへの移行である。廃プラスチック等を受入れてきた国々の環境規制強化に伴い、各国内での資源循環の枠組み構築が求められるようになっている。第三は、天然資源の保護と使用の抑制、責任消費が挙げられる。水資源に加え、動植物を問わず天然資源の過度な利用を抑制する方向が明確になりつつあり、代替肉や合成皮革などが普及し、技術開発も進められている。
こうした中、欧州委員会で、初の女性委員長に就任したウルズラ・ゲルトルート・フォン・デア・ライエン委員長は、2019年12月に欧州の新たな成長戦略として、“欧州グリーン・ディール”を公表した。
2050年までに欧州は世界初のカーボン・ニュートラル大陸になることを目指し、100日以内に欧州気候変動法を公表するとしている。
また、資源の効率利用を促し、欧州企業がクリーン技術のリーダーになることを支援する。スマートな交通と汚染を削減することによる健康の維持を守り、動植物を保全して生態系を維持する。さらに、“農村から食卓まで”安全安心を目指した次世代に向けて健康と自然環境に配慮した変革を担うとしている。
こうした戦略は全産業をカバーするもので、年間2600億ユーロ(約35兆円)、GDPの1.5%相当の投資をする計画を、今後欧州議会で議論される。
2020年3月には“Climate Pact(気候協定)”と呼ばれる方針を公表するとしているほか、主要項目の実施時期を来年までにスタートする方向となっている。欧州がこうした環境・サステナビリティを先導する背景には、欧州の人々の9割以上が「気候変動が重要な課題」であり、「何らかの施策を講じるべき」と考えているという問題意識がある。欧州では2021年から始まる乗用車の排出規制により、数年以内に電気自動車が最も安価な選択肢となるという見方もある。気候変動や持続可能性への配慮は、米国でも若年層を中心に拡大しており、電気自動車は右肩上がりで増加し、金融機関の投融資にも影響を及ぼしている。2030年に向けて、経済活動全体に自然環境を配慮した動きが根付いていく方針が始まりつつあるといえそうだ。
欧州グリーン・ディール(2019年12月11日公表)のロードマップ(一部抜粋)
アクション | 実施予定時期 |
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2050年までにカーボン・ニュートラルを目指す欧州気候法案の提案 | 2020年3月 |
欧州気候協定(European Climate Pact)の始動 | 2020年3月 |
資源集約産業(繊維、建設、エレクトロニクス、プラスチック)業界を含めたサーキュラー・エコノミー・アクションプラン | 2020年3月 |
“農村から食卓まで(Farm to Folk)”戦略 | 2020年春 |
持続可能な化学物質戦略 | 2020年夏 |
電池とサーキュラー・エコノミーの戦略アクションプランを支援する電池の法制度 | 2020年10月 |
非財務報告指令のレビュー | 2020年 |
エネルギー税指令改定案 気候変動への取り組みに向けた排出権取引指令、土地利用、森林関連の規制、エネルギー効率指令、再生可能エネルギー指令、車やバンの排出基準の提案 |
2021年6月 |
水・大気・土壌へのゼロ汚染計画 | 2021年 |
*本稿は2020年1月22日の環境新聞に掲載されました。