菅義偉首相の2050年の温室効果ガス排出実質ゼロ宣言により、日本でも気候変動政策や再生可能エネルギー政策がこれまで以上に進められる方向となっているが、本稿では循環型経済、いわゆるサーキュラー・エコノミー政策の先行する欧州の状況を紹介したい。
欧州では、今後20年でプラスチックの消費量が倍増することを踏まえ、2018年にプラスチック戦略が策定され、まずはプラスチック廃棄物の約6割を占めるプラスチック・パッケージ類のリサイクル目標を、2025年までに50%、2030年までに55%と設定した。
プラスチック・パッケージ類のリサイクル率はEU各国で23.5%~74.2%まで差があり、全体として41.9%とされていた。しかし、厳格な報告基準を適用したことにより、約10%低い32‐29%となると欧州会計監査院は公表している。
プラスチック・パッケージ廃棄物は、2012年から2017年の期間、27‐30%がEU域外でリサイクルされており、リサイクル目標の達成には、輸出先となる海外でのリサイクル状況が重要な役割を果たすことを指摘している。
2018年以降、中国の受入禁止によって、スロベニア、ポーランド、チェコなどEU域内での輸入が急増しているが、EU域内では、プラスチック廃棄物全体の約半分のリサイクル処理能力しかなく、現時点では分別や焼却施設も不足しているようだ。2021年から施行される新バーゼル条約の影響もあり、域外でのリサイクル処理はより難しくなる。
EU指令では、廃棄物の輸出先においてもEU域内と同じような条件を満たすことを求めているが、海外での状況について、輸出元の国としての執行管理はできない。
欧州域外への輸送やリサイクル処理は、汚染やCO2排出の増加、環境への放出などの課題もあるが、域内処理においても同様の課題がある。
オランダではプラスチック・パッケージのリサイクルを増やすため、基金をつくり、リサイクルしやすいパッケージの製造業者に対してインセンティブをつける仕組みを2019年から適用している。しかしながら、今後EU全体でのリサイクル率の大幅増加につなげるためには、廃棄物関連インフラへの財政支援や、拡大生産者責任を強化し、リサイクルをしやすい製品設計や、生産から廃棄までを対象とするなど新たな規制の可能性を検討することも示唆している。
製品のライフサイクルにわたって、世界的なサプライチェーンのつながりが進む中、特定の国や地域のみで、短期的に環境と経済を両立することは難しい。プラスチック・パッケージのリサイクル率の達成のみならず、EUのサーキュラー・エコノミー政策全体を進めていくには、グローバルな協力があってこそ可能であるとしている。
欧州指令によるリサイクル目標
廃棄物 | 法的根拠 | 2025年まで | 2030年まで | 2035年まで |
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一般廃棄物のリユース・リサイクル目標 | 廃棄物枠組み指令98/2008 | 55% | 60% | 65% |
一般廃棄物の最終処分 | 処分場指令1999/31 | ― | ― | 10%以下 |
すべてのパッケージ廃棄物のリサイクル率 | パッケージとパッケージ廃棄物指令94/62 | 65% | 70% | ― |
プラスチック・パッケージ廃棄物のリサイクル率 | パッケージとパッケージ廃棄物指令94/62 | 50% | 55% | ― |
出所)European Court of Auditors, EU Action to tackle the issue of plastic waste (2020)
*本稿は環境新聞(2020年11月18日)に掲載されました。