我が国にも影響のある米中貿易摩擦問題の一つに、レアアース(希土類)がある。
レアアースは、わが国では、経済産業省が指定する34鉱種指定しているレアメタルの一部(17元素の総称)で、半導体や液晶、強力磁石や工具などに広く活用されている。
レアアースを含む、レアメタルは、「地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属のうち、安定供給の確保が政策的に重要な金属類」と定義しており、強力磁石に必要なネオジム、ジスプロシウム(希土類)や電気自動車に必要なリチウムやコバルト、太陽光パネルなどに使用されるインジウムやガリウムなどが含まれる。
このレアメタルは、米国や欧州、豪州などでは、重要鉱物(Critical Mineral)と呼ばれることが多く、それぞれの地域で重要性や希少性を踏まえて指定しているが、多くは共通している。この背景は、レアアースを含むレアメタルの多くを中国が産出しており、我が国はもとより、米国、欧州の主要産業もその供給を中国からの輸入に依存してきたためである。
米国では、この重要鉱物の輸入依存度が高いことについて、経済及び安全保障上のリスクとして1980年代から課題提起されていたが、中国が一時的にレアアースの輸出制限を行ったことでレアアース・ショックが起きた2010年以降、継続的に調査報告書等が出され、米会計検査院等から政策立案を推奨されていた。
西部や中西部を中心に、米国内にもこれらの鉱物の所在が確認されているものの、中国からの安値による輸出攻勢により鉱山が閉山したり、環境影響評価を義務付ける国家環境政策法や水質浄化法その他環境法の許認可の発行が長期化することなどにより、実質的に鉱物開発が制限されてきた。
こうした状況に、トランプ政権では2017年12月大統領令13817号を発行し、重要鉱物に関して米国内での生産を推進する方針を打ち出している。米国内で鉱物生産を抑制する各種規制の変更や許認可の迅速化、同盟国などと連携した研究開発などを推進する方針を示すと共に、当面の重要鉱物35種類を定め、2018年5月、内務省が正式決定した。
2019年6月初旬には、商務省から「重要鉱物の安全確実で信頼できる供給確保に向けた連邦政府戦略」が発行された。自国内での取組と共に同盟国と協力しながら、米国内の国有地や海域等において重要鉱物の安定確保に向けた施策を進める方向となっている。
すでにオーストラリアは、2018年12月、米国と重要鉱物に関して強調して研究開発等を実施する方針の覚書を締結している。
一方、中国では、2010年以降、脱・省レアアースの進展による需要低下に対応するための国内産業保護政策を実施しているが、一方では、環境規制強化の一環で、各種廃棄物やスクラップなどの輸入を禁止・抑制する規制も制定され、国内市況に変化が生じている。また、2019年4月には「国家水保全行動計画」を公表し、節水の必要性を打ち出しているほか、土壌・地下水汚染等の規制が徐々に整備され、鉱物開発の環境対策やそのコスト等への影響もある。
いずれも短期的な課題だけではなく、中長期的な方向性がでてくる中で、環境問題や環境規制が、レアアース問題においても重要な一要素となってきている。
日本では、2010年のレアアース・ショックを契機に、レアアースのリサイクル技術や使用量を低減する技術開発などが進められている。環境影響を低減しながら、技術や製品を製造・使用・廃棄する流れは今後より重要になっており、より優れた技術が開発・普及していくことを期待したい。
(参考)米国の重要鉱物リスト(35種)
(出所)各種公表資料より作成
本稿は環境新聞2019年7月17日号に掲載されました。