6月初旬にドイツで開催されたG7では、首脳宣言に「責任あるサプライチェーン」の項目が含まれ、CSRの一環であるサプライヤーへの取組について、先進7か国で積極的な取組を支援することが提唱された。
首脳宣言の内容は、昨今のグローバル企業におけるCSRの大きなテーマであるサプライチェーンの労働・環境条件の改善について、大企業だけでなく、中小企業においても理解を深めることが重要であると示している。
この背景にあるのは、2013年4月にバングラディシュの衣料品工場の建物が崩壊し、1100人以上の犠牲者がでた大惨事である。この大惨事は、比較的取り組みが進んでいる大手衣料品メーカーの取引先である現地企業で、工場の建物安全基準の順守が適切でなかったことが背景となり、機械設備の一斉稼働の負荷が建物崩壊につながったと報告されている。
世界中に広がるサプライヤーで働く人々の安全や労働条件を確保するために、通常の操業規則だけでなく、その施設や建物の建築や安全基準まで確認することの認識と課題が共有化されると共に、今後の労働や環境条件の改善に向けた取組をどのように行うのか、新たな課題を提起した。
同惨事後、欧州や米国の企業がグループ等を組成し、新興国のサプライヤーの労働や環境状況の改善に向けた活動を進めるための基金が設立され、活動が進められている。
6月初旬にドイツで開催されたG7では、こうしたグローバル化する企業のサプライヤーにおける労働関連の事故や惨事を予防し、新興国の労働条件や職場環境について一定の基準を確保する取り組みを進めるため、さらに“ビジョン・ゼロ・ファンド”と呼ばれる基金を国際労働機関(ILO)と設立することに合意した。
報道情報によると、この“ビジョン・ゼロ・ファンド”は、保険の役割をもつ基金となることが予定されているようで、新興国の労働者が、操業中に惨事や事故に犠牲になった場合に、基金から一定の補償を得ることができるための仕組みであるという。
保険の機能として、より良い取り組みを進めることにより保険料が削減されるという経済的なインセンティブが組み入れられる可能性がある。今後、業界や規模の異なる企業間で、各地域の特性や課題を共有し、より良い取り組みの構築や改善を進めていくことが重要になるだろう。
6月から施行された東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードによって労働や環境に関する取り組みや情報開示も進んでおり、海外拠点のリスク管理の強化をする企業も増えている。2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会においても、社会的責任や持続可能性について両立する大会となる方針が示されていることから、国内外で、企業グループ内だけでなく、サプライヤーの労働・環境条件の改善に向けた取組が進められることになっていくことが予想される。
*本稿は、2015年6月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。