CSRと地域社会

2014年1月

2013年は国内経済に明るいニュースが多々あったが、同時に企業の社会的責任(CSR)についても、大きな変化の一年でもあった。
第一は、昨年5月に、国内外の企業に活用されているCSR報告書のガイドラインが7年ぶりに改訂されたことである。GRIと呼ばれるこのガイドラインは、今回で4回目の改訂となり、世界中の企業が活用している。今回は、日本語を含めて10ヵ国語以上に翻訳され活用が広がることが予想される。改訂の大きなポイントは、各企業が重要だと考える環境や社会的な要素を自社で検討して開示することが求められる点である。これまでは、100項目を超える網羅的な情報を開示することが推奨されていたが、今後は各企業の事業に応じた重要な情報を中心に開示することが求められ、より企業の姿勢が反映される方向になっている。

第二は、これとも関連するが、昨年12月に発行された統合報告書の枠組みである。統合報告書とは、企業が発行する決算資料にあたる財務報告書とCSR報告書を一体化した報告書の総称である。現在は、経済活動を示す財務報告書と、環境や社会面を表すCSR報告書は別々の報告書として発行されることが主流である。しかし、環境保全や働き方、社会との関わりなどは、企業の財務状況と密接不可分な影響があるとして、双方を共に報告する統合報告書が推奨されるようになっている。先進的な企業を中心に統合報告書の発行が増えており、2012年時点には、世界では350社以上、日本企業でも50社以上の企業が統合報告書を発行している。今回のガイドラインの発行により、ますますその傾向が増えていくと考えられる。

そして第三は、インドにおいて、世界で初めて、CSR活動が会社法に明記されたことである。約60年ぶりに改訂された同国の会社法では、一定規模以上の企業にCSR体制の整備と、利益の2%以上を各社が定める教育や環境保全などのCSR活動に使うことが義務付けられるようになった。新興国の新たな動きとして注目されている。
いずれも海外発のニュースであるが、CSRで示される環境、社会等の重要性が経営そのものと密接に関わる方向性を示しており、国内企業にも影響が及ぼされよう。
日本には、江戸時代の近江商人による「三方よし」の考え方に示されるように、古くから社会と共生する考え方が企業理念として根付いていた。これが、CSRという形で、よりわかりやすく、国内外の関係者(ステークホルダー)とコミュニケーションを図る共通言語となってきている。社会経済のグローバル化と共に、より広い地域社会や世界を視野に入れた「新たな時代の三方よし」が求められるようになっている。

*本稿は、2014年1月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。