2020年のオリンピック・パラリンピック開催地が東京に決まってから、まもなく1年を迎える。企業経営においても、これまで3年、5年といった事業計画を策定する企業が多い中、2020年をベンチマークとして、事業計画や中期経営計画を立案する企業も増えているのではないだろうか。これらに合わせて、CSRについても2020年に向けたCSR方針を策定する動きも増えてきている。
一般に、売上や収益目標と異なり、CSRに関する成果は中長期的に表れるものだ。環境負荷の低減やエネルギー効率の向上、社内人材の多様性の向上、グループ全体のリスク管理強化、事故率の低減等、いずれも短期間で企業全体に浸透させ、維持できるものは少なく、会社全体の方針をもとに会社での仕組みや社員の意識、そして会社全体の文化や社風として根付いて結果が表れる。
現在、政府の成長戦略と共に進められている女性管理職の拡大や国際化に伴う海外からの採用拡大、社内人材の多様化は、3年~5年かけて採用や人事評価、働き方まで企業文化全体に係る取組になるだろう。
一方、四半期毎や毎年数値目標が求められる売上や収益等と異なり、CSRに関する目標は定性的なものも多い。また、国内外を含め、環境保全やリスク管理、人材の多様性等が各社で推進されるようになり、責任者や担当者の変更に伴い、中長期の成果や評価が判断しにくいこともあるだろう。さらに、外部環境の変化によってこれまでの目標や方針が徐々に現実にそぐわないものになっていることもある。このためCSRを会社として進めても、達成感や新たに何を目標設定したらよいのか迷いが生じることもあるだろう。
こうした中だるみの状態には、自社の社内の状況だけでなく、外部環境を改めて整理し、自社の位置づけやポジションを改めて明確に把握することが重要だ。変化の激しい時代において、数年の間に同業他社や海外企業の変化を踏まえて、自社の中期目標を改めて設定することは、社内全体の意識改革にもつながるだろう。
【今後も続く「安全」の価値】
環境変化の続く時代に、世界的に価値が高まっているテーマの一つは「安全」である。
各事業によってその定義や対象は異なるが、「安全」性の高い企業文化は、大きな信頼と価値を得ることが国内外で指摘されている。ここで重要であるのは、多様な文化のなかで共通の理解を得られる「安全」という明確なコンセプトである。事故の無い安全な運営や運転、セキュリティの確保された安全な取引、犯罪が少ない安全な街、安全な水や食べ物など、安全の範囲は多岐にわたるが、これらを維持し、組織として確立していくには絶え間ない改善と教育、情報の引継ぎなど多くの取組が必要である。
もともと日本は「安全」に対する高いブランドや信頼感がある。環境変化の続く現代において、「安全」というテーマの重要性はしばらく続くと考えられる。安全について信頼性の高い柔軟な組織を確立することができれば、2020年においても企業のCSR上の大きな価値につながるだろう。
*本稿は、2014年8月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。