はじめに
2001年から発行されている英国の「倫理的な消費者マーケットレポート」の最新版2012年レポートによると、欧州での厳しい経済状況のもとでも、環境や持続可能性に配慮した製品のマーケットの成長は揺るがず、過去5年間で30%伸びているという。
英国でのこうした消費者行動は、食品や飲用水、消費財などの製品だけでなく、住宅や旅行、交通手段についても拡大している。これらの製品やサービスを提供する企業にとっては、自社で販売・製造する製品やサービスの調達先における環境や労働・社会面でのコンプライアンスをチェックし、その製品やサービスが環境や社会面を含めた「持続可能性(サステナビリティ)」の観点で不適切なものではないことを確認するプロセスが必要になる。
日本国内でも、2012年にCSR調達の推進等を研究する研究会として「倫理的購入・CSR調達ガイドライン研究会」(*1)が発足するなど動きが広がっている。
本稿では、大手グローバル企業のCSR調達方針や調達組織、開示情報、の動向を紹介し、近年広がりつつあるCSR調達方針の国際的な収斂や利便性を高めるツールの動きについても紹介したい。
大手グローバル企業のCSR調達方針
多分野にわたる多数の商品を取り扱う企業の代表格として総合小売・流通業があり、また電子機器や衣料品などの消費財メーカーやブランド企業など、CSR調達の進んだ業界に加え、他にも多くの業界で取組が進められているところである。
調達方針
現在世界全体には、2,000を超える環境・労働関連のCSR調達基準やガイドラインがあるといわれる。個別の基準はそれぞれ10~20前後の原則が記載されており、これらを実際に監査する際の個別項目として数十から数百項目の詳細規定がされているものもある。
大分類として、法令順守及びガバナンス、労働、人権、環境、公正取引、消費者などの項目がカバーされており、ISO26000などで提唱されているCSRの考え方が網羅されている。業界や地域、基準の考え方などにより、若干の相違はあるものの、ILO(国際労働機関)の原則やOECD、国連などの国際機関のほか各地域のCSRに関する主要な方針やガイドラインをカバーする内容となっている。
海外大手企業の調達方針は、これらの項目に加え、業界や地域の状況を加味して、自社のCSR方針や理念を踏まえて追加または簡素化し、作成されたものが多い。
ガバナンス | 国際的なルールの順守、対象となる各国法令順守、 調達先の法令順守、適正な財務管理 |
---|---|
労働・人権 | 児童労働・若年労働、強制労働、労働時間 差別・ハラスメント、団体交渉、安全衛生、危険作業 宿舎・施設環境、過重労働、緊急時対応、適正な賃金支払 |
環境 | 有害物質管理、大気・水・土壌などの汚染 騒音・悪臭(公害関連)、廃棄物管理 エネルギー利用、CO2排出量、環境マネジメントシステム |
公正取引 | 汚職賄賂防止、知財保護 |
消費者 | 品質・安全性、製品欠陥事故、プライバシー保護 |
各種資料より筆者とりまとめ
調達組織
大手グローバル企業においてCSR調達を管轄する部門の組織としては、「Responsible Sourcing(責任ある調達)」、「Ethical Sourcing(倫理調達)」といった名称が記載されているケースが増加している。法務、人事、環境、営業関連など、多数の部門にわたる横断的な情報を取り扱う組織であり、各部門間をコーディネートする役割と共に、外部のサプライヤーに対して監査や教育や研修などを実施する部門となる。企業の内外との円滑なコミュニケーションを進めながら、多数の情報を取り扱う部署となる。
企業内の方針を、最終的な買い手である消費者だけでなく、取引先に対してもわかりやすく公表することも求められ、経営全般の知識も必要になる。CSRの一環としての調達手続きに加え、企業の経営理念に基づく戦略上の重要組織としてその有用性も高まっている。
*1 http://www.igpn.org/csr2012/index.html
各企業のCSR調達情報の開示動向
CSR調達の活動と共に、グローバル企業ではその情報開示を拡充させている。世界最大の米国ウォルマート社や仏カルフール社、米国のヒューレッド・パッカード社やアップル社は、各企業のCSR調達情報となる「Supplier Responsibility」、「Supply Chain Responsibility」に関して、CSRレポートの一部または個別レポートとして10ページを超える情報を開示している。
これらの開示情報では、グローバルな調達体制をもつ企業が、自社のリスクやその対応方法を説明している。また、毎年の改善状況を報告することによって、リスクにどのように対処し、社会全体の持続可能性の向上を目指すうえで、どのような活動・貢献できるのかを示し、経営に直結する課題に透明性を持って対応する姿勢を打ち出しているといえる。
≪電子機器業界の事例≫
電子機器業界では、米国アップル社が2007年から毎年「Apple Supplier Responsibility」という個別レポートを開示しており、最新の2013年版では、30ページを超える内容になっている(*2)。
世界各地のサプライヤーに対する現地の監査は2007年比で10倍以上の390カ所で行っている。同社が重視している労働時間や若年労働などの監査やその改善策を詳細に報告しており、単にサプライヤーとの取引を停止するのではなく、問題の再発防止を講じることから進め、問題改善に努めないサプライヤーについては、取引停止を行う方針であるとしている。2012年からは主要サプライヤーについてはその企業名も公表しているほか、2013年度版報告では、労働、人権問題に加え、希少鉱物問題や有害物質の使用に関連する労働環境の問題にも触れるなど、即時改善を進めることとしている。
また、大手電子機器メーカーのヒューレッド・パッカード社(以下、HP社)は、「Corporate Citizenship Report」の中で、16ページにわたり、サプライチェーンの状況を開示している。2002年から業界初の取組として策定したサプライヤーに求める社会・環境面の規定や取組の経緯を紹介すると共に、前年に実施した地域別のアンケート結果を開示し、分析している。同社は、45カ国以上に広がる1,000社以上の製造サプライヤーを有し、そこで業務する従業員の総数は数百万人にのぼる。このうち2011年に監査を行った工場サイトの従業員だけでも25万人を超えており、監査結果が公表されている。
HP社では、業界基準となる「EICC(Electronic Industry Citizenship Coalition, EICC Code of Conduct)」をベースに、ISO関連の基準を補完的に活用し、4つの段階に分けて、自社のサプライヤー・マネジメントを実践している。また、アップル社と同様に主要サプライヤーの企業名リストを公表しているほか、ウォルマート社のような地域別のサプライヤーの状況や分野別のキャパシティ・ビルディングの実施事例を紹介している。
≪小売・流通業の事例≫
世界最大の小売・流通業である米国のウォルマート(Wal-Mart)社は、2011年には年間8,700の工場に対して、合計約1万回の監査を実施している。世界中にサプライヤーをもつ同社は、全世界を6つの地域に分け、工場などを監査し、監査結果を3段階で評価して、地域別の評価割合や各地域に特徴的な課題を整理・分析し、開示している。これらの課題は、グローバル展開する同社のサプライチェーンでの倫理調達におけるものとして記載されている。
また、フランスの大手小売カルフール社でも、1990年代後半以降開始したサプライヤーに対する社会的責任の取組を進化させており、2010年までに4,000回を超える現地監査を実施しているという。サプライヤーとの取引契約では、社会的責任に対する取組方針に関する規定を契約書に組み入れており、サプライヤーに対しては不定期に監査を実施している。
企業名 | Wal-Mart | Carrefour | Apple | HP |
---|---|---|---|---|
本社 | 米国 | フランス | 米国 | 米国 |
主要業種 | 小売 | 小売 | 電子機器 | 電子機器 |
参照基準や連携組織 | GSCP ILO、IFC BSR、ETI SAC |
SAI ILO FIDH GSCP CSR Asia WWF |
EICC GeSI FLA |
EICC GSCP、ILO EEP Diversity Program多数 |
各社公表情報より筆者とりまとめ
- BSR
- :Business for Social Responsibility
- EICC
- :Electronic Industry Citizenship Coalition
- EEP
- :Energy Efficiency Partnership in China
- ETI
- :Ethical Trading Initiative (ETI)
- FLA
- :Fair Labor Association
- FIDH
- :International Federation for Human Rights
- GeSI
- :Global e-sustainability Initiative
- GSCP
- :Global Social Compliance Programme
- IFC
- :International Finance Corporation
- SAI
- :Social Accountability International
- SAC
- :Sustainable Apparel Coalition
- SCI
- :Social Clause Initiative
企業間・業界で進むCSR調達基準の共有活用
世界各地で数多くの商品を取り扱うグローバル企業にとって、業種や国別、製品別に適用されている調達基準に沿った商品を調達することには、多くの労力とコストが割かれている。
このため、環境や社会・労働面といったいわゆる非競争上(non-competitive factors)のコンプライアンスについて、業界を超えた企業間で協業をする動きがこの数年活発になっている。これにより、重複する監査を削減すると共に、よりわかりやすいコンプライアンス指針をまとめることで、調達先である新興国の環境や社会・労働面の環境改善につなげることをめざしている。
GSCP:小売・製造などによる取組
「GSCP(Global Social Compliance Program)」は、世界最大の業界団体である「CGF(The Consumer Goods Forum)」の関連組織として、2006年に設立された。CSR調達を推進し、新興国を含めた社会・労働、環境のサプライヤー・コンプライアンスの推進を目指しており、現在のメンバーは26社となっている。総合小売のウォルマート(米)、テスコ(英)、カルフール(仏)、ミグロ(スイス)をはじめ、ナイキ、ウォルトディズニー、デル、HP、メンバー企業全体の売り上げ規模は100兆円を超えている。
設立時のメンバーは、米ウォルマート社、仏カルフール社、英テスコ社、スイスのミグロ社などの大手流通業であり、サプライヤーの社会労働及び環境面のコンプライアンスという非競争分野の課題を業界内の企業間で取り扱うことで、より効果的に世界規模でのサステナビリティを高めていくことが、設立の目的であった。
2006年当時から、多国籍で展開する小売業などでは、すでに数百を超える労働基準、環境基準、ガイドライン等に沿ったサプライヤーの監査を実施しており、調達先である製造・加工企業側も、サプライヤー側も労働や環境面の監査対応が重複し、多大な時間とコストをかけていた。このため、増加傾向にある各種CSR基準の共通項目を共有化するよう会員企業間で洗い出し、国際機関やNGO、大学・研究機関など外部専門家で構成するアドバイザリー委員会を含めた仕組みの構築を進めている。
各企業で重複する監査が省略できるため、コスト削減をすることができ、また、調達地域においても、労働や環境・社会面で求められる基準が統一化されることによって、各種法令順守に取組やすくなる。その結果、調達先である新興国の地域社会・労働及び自然環境がよりよい方向に向かうことを目指している。
具体的には、各業界の社会労働・環境面のチェック項目を統合した標準チェック項目を作成し、これらをベースに各企業が監査を実施し、その結果をメンバー企業に共有することを通じて、その結果をメンバー企業は活用することができる。
例えば、GSCPに加盟するメンバー企業3社が、調達国A国のサプライヤーB社との間でそれぞれ取引があるとする。従来は、メンバー企業3社が別々にB社の監査を実施していたが、GSCPの仕組みにより、GSCP基準の監査をいずれか1社が実施することにより、他の2社はこれらの監査結果の情報を共有することができる。
また、メンバー企業にとってだけではなく、サプライヤー側も、調達企業による個別の監査を受ける時間を省略することができる。さらに、GSCP基準に基づく監査の結果、高い評価を得ることができれば、この枠組みに参加するGSCPのメンバー企業からのCSR面での一定の調達要件を満たしているとされるため、取引先の拡大の機会になり得るなどのビジネス上のメリットも大きい。次項で紹介する南アフリカやインドなどで、GSCPに類似する枠組みが広がっている理由はここにある。
GSCPはメンバー企業間での取組が基本ベースではあるが、ここで開発されているツールについてはWeb上で公表されており、現在英語のほか、一部資料がスペイン語及び中国語で公表され、会員企業以外でも一般にアクセスできるようになっている(*3)。
マニュアルの種類等 | ガイドライン等(英語) | スペイン語 | 中国語 | |
---|---|---|---|---|
社会労働 | 環境 | |||
必要な参照事項 | 〇 | 〇 (サプライヤー 向け有り) |
〇 (社会労働のみ) |
〇 (社会労働のみ) |
監査方法 | 〇 | 〇 | ||
監査能力 | 〇 | |||
マネジメントシステム | 〇 |
出所:GSCPnetの公表情報より筆者とりまとめ
GSSIシーフード業界における取組(Global Sustainable Seafood Initiative)
調達側である大手企業による共通のCSR調達基準が、調達先である新興国の生産者にも受け入れられているGSCPの成功を受け、漁業関連(Fishing Industry)の業界でも、調達基準の業界標準化の動きが始まっている。
2012年に設立された「GSSI(Global Sustainable Seafood Initiative)」では、オランダの会社が中心となり、世界各国のシーフードのエコラベルや認証を統合し、「持続可能なシーフード認証プログラム(Sustainable seafood certification programs)」を推進している。すでに欧州や北米のシーフードに関わる生産者、加工会社、小売事業者、非営利団体などが参画しているほか、国内規制等の整合性を見極めたいとしてドイツ国際協力公社(GIZ)が資金の半分を提供し、オブザーバーとして参加している。
衣料品業界における取組
衣料品ブランドを展開するグローバル企業もCSR調達の取組が活発化しているが、特に有害化学物質に対する業界内での取組も始まっている。2020年に向けた有害化学物質の排出ゼロを目指した活動として、「Zero Discharge of Hazardous Chemicals(ZDHC)」(*4)と呼ばれる取組では、シューズメーカーのナイキ社、アディダス社、プーマ社をはじめ、ファストファッションとして知られるH&M社やジーンズのリーバイス社なども加入している。
2020年までの目標達成に向けて四半期ごとに進捗報告を公表しており、これまで50の化学物質が含まれた衣料品を対象とするハザードスクリーニングツールを開発している。このハザードスクリーニングツールは、バングラディシュや中国で試験的な運用を行っており、これらをベトナム、台湾、インドなどにも拡大する方向が示されている。
日本国内でもユニクロを展開するファーストリテーリング社でも、2020年までに有害化学物質の排出ゼロを2013年1月に公表し、衣料品業界でのこうした動きが広がりを見せている。
*3 http://www.gscpnet.com/working-plan.html
*4 http://www.roadmaptozero.com/
調達国の動向
先進国の調達先となる新興国においては、上述のような企業間で共通化するCSR調達方針を満たす生産体制を拡充するための企業支援の動きが広まっている。
インド
インドでは、インド政府も支援しているインドアパレル業界の自主的取組として「Driving Industry towards Sustainable Human Capital Advancement(DISHA)」(仮訳:持続可能な人材の発展に向けた推進産業)が、CSR規範に順守した工場の拡充を目指し、インド政府繊維省(Ministry of Textiles, Government of India)の支援を受けながら活動を進めている。
政府が支援する背景として、海外の大手アパレルブランド企業と取引をするインド国内企業が、大手グローバル企業の調達方針に沿って環境や労働・社会面でのコンプライアンスを推進することで、国内における法令順守を確保できるだけでなく、国際的にも“インド・ブランド”を強化できるチャンスと捉えているためである。
グローバル企業が主体的に制定した共通の環境・社会調達ガイドラインを順守すれば、インド国内企業は、それらの大手ブランド企業との取引が成立しやすくなり、その結果ビジネス成長も期待できるようになる。よって、インド政府はこうした活動を支援しており、2017年までにこれらの原則を順守する国内工場を3,000にまで拡大する方向を示している。
DISHAでは、CSR調達基準で一般に適用される以下の11原則を「共通規範(Common Code of Conduct、CCC)」として規定している。
原則1:児童労働の禁止 | 原則7:健康・安全の確認 |
原則2:強制労働の禁止 | 原則8:下請けに関する規制 |
原則3:差別の禁止 | 原則9:集団活動の自由を尊重 |
原則4:ハラスメントや権力濫用の禁止 | 原則10:環境保護 |
原則5:労働時間の規制 | 原則11:マネジメントシステムの確立と実施 |
原則6:賃金・報酬の確保 |
出所:DISHA Common Code of Conduct 2012, Apparel Export Promotion Council, Centre for Responsible Business
南アフリカ
2008年以降、倫理的な貿易プログラム(Ethical Trade Programme)を推進する南アフリカでは、フルーツ生産者を中心として、労働や環境面のコンプライアンスを確認し、CSR調達を求める先進国の大手流通業との取引拡大に向けて、非営利団体であるFruit South Africaが活動を推進している(*5)。
Fruit South Africaは、複数のフルーツ関連の業界団体から構成され、各団体の会員数は、5,000の生産者と40万人の従業員から構成され、生産者や梱包業者、輸出事業者をはじめ、輸入業者、小売業者などが参画して業界のライフサイクルにわたり法令順守を促す活動を進めている。
これらのフルーツ生産者は、同国の持続可能な取組を推進することを目指したプログラムである「Sustainability Initiative of South Africa(SIZA)」に参加し、上述したGSCPに該当する環境・労働に関する法令順守を適用することで、調達側となるGSCPのメンバー企業との取引が推進されることになる。Fruit South Africaでは、各種基準や法令順守に関する資料を提供し、キャパシティ・ビルディングと呼ばれる研修活動を実施している。
国際機関等の動き
グローバル企業のCSR調達の動きを新興国の経済成長と社会・労働・環境面の取組を相互補完的に推進することを後押しする動きとして、国際機関も活発に働きかけている。
UNIDO
国連工業開発機関(UNIDO、United Nations Industrial Development Organization)は、日本を代表する総合小売のイオン社やドイツのメトログループ社と共に、持続可能なサプライヤー・ディベロップメントプログラムを開始し、調達先新興国における中小規模のサプライヤーの環境・社会労働面のコンプライアンスを推進する取組を始めている。
UNIDOは、新興国の持続可能な産業発展を普及させる国連組織で、1966年に設立された。特に食品の安全性、持続可能性、生産性を向上させるプログラムとして、先進国の大手小売業と新興国のサプライヤーを長期的に良好な関係構築を進める取組として、開始している。
イオン社はマレーシアで、またメトログループ社はエジプトやインド、ロシアとのプログラムを進めている。新興国の生産者にとっては、先進国の大手小売業者との取引につながる機会にもなり、自国の生産体制の安全性や持続可能性を高めることにもつながるプログラムである。
UNIDOでは、中小企業向けのCSRに関する管理・報告ソフトウエア(REAP、Responsible Entrepreneurs Achievement Programme)を開発提供しており、これによって生産者側のパフォーマンスが評価される。
国際貿易センター(ITC)
国際貿易機構(WTO)と国連(UN)の共同組織である国際貿易センター(ITC、International Trade Centre)には、グローバルデータベースを作成する「T4SD(Trade for Sustainable Development)」というプログラムがあり、持続的開発に向けて世界に無償で提供されている750を超える持続可能性に関する基準や規範、監査ガイドラインなどを分析している。
このうち、約80のサステナビリティに関する基準や監査ガイドラインなどを集計し、オンラインで比較できる有償プログラム「Standard Map」(*6)を開発し、Web上で提供している。新興国のサプライヤーがこのガイドラインを使用して自社の原材料や製品が調達先のガイドラインに合致するかを比較検証してみることができるほか、調達企業でも各種要件の比較が可能になっている。
同データベースには、日本でも普及しているFSC(森林認証)やGRIのほか、ILOやグローバルコンパクト、FAOなども含まれ、アジアでは中国、香港やタイ、シンガポール、台湾等のエコマークも含まれている。段階的に基準やガイドラインをさらに拡充する方向としている。
こうしたデータベースやサプライヤーに対するアンケートなどインターネットを通じた仕組みは各所に広がっており、上述したEICCの「EICC-On」やGSCPにおいても活用が進められている。
おわりに
2013年に入り、円安傾向に転じているとはいえ、世界の様々な市場における事業を拡大している流れは、日本企業にとって大きな方向性の1つである。
1990年代以降進められてきた環境配慮のグリーン調達は、いまや、労働や社会面を含めたCSR全体を配慮するCSR調達へと大きく変化しつつあり、この動きは今後も加速することになる。
日本の雇用慣行や労使関係は、必ずしも世界の多くの国と共通しない部分がある一方で、日本企業においてイノベーションを生み出してきた現場力の源泉である。キャパシティ・ビルディングなどを通じて、日本の労使の有効な関係を調達先にも伝達するチャンスになる可能性もある。
海外取引先への労働や社会面を含めたCSR調達の基盤構築をこれから整備する企業にとっては、本稿で紹介した先行事例となるいくつかの海外グローバル企業の調達方針やその実務基盤をうまく活用することが、コストや情報共有といった企業経営のメリットの点でも、有用な選択肢の1つとなるだろう。
※本稿は2013年3月に第一法規株式会社 World Eco Scopeに掲載された寄稿を、同社承諾のもと一部編集して掲載しています。