環境分析データの電子納品(Electronic Data Deliverables, EDD)と関連法制度(1)

2013年10月

国内では、公共データの民間開放や電子行政オープンデータの推進が進められることとなり、民間利用やビジネス化もめざした取り組みが2016年に向けたロードマップに記載されている。また、6月にはG8オープンデータ憲章が合意され、国際的にも透明性の高いプロセスにおいて、有用なデータを公表する方向性が合意された。

今月から6回にわたり本稿で紹介するEDD(Electronic Data Deliverables)と呼ばれる環境分析データの電子納品は、単にデータのIT化という業務効率化だけでなく、企業のイノベーションにつながる重要な施策であり、米国では環境政策の今後の大方針として中期プロジェクトが実施されている。 日本国内でも、現在進められている東日本大震災からの復興事業や開催が決定した2020年東京オリンピックに向けた建設プロジェクト、食品の輸出入に伴う検査業務など多方面で活用されることにより、大量の環境情報を正確かつ迅速・安全に共有し、国内の環境分析事業の生産性向上と環境ビジネスのイノベーションにつながる大きな可能性を秘めている動きである。

海外での環境分析事業の動向をみると、環境対策や環境ビジネスの根幹を担う環境計量分析結果を、電子的に共有し、他の知見や分野との相互共有を進めることで、飛躍的な効率化とイノベーションが生まれる可能性を具備していると考えている。それは国内の業務効率向上や業界の活性化だけではなく、電子認証等などを通じて国内の環境分析事業の品質管理の向上にもつながり、国内だけでなく、環境分析事業のグローバル展開の推進にもつながる可能性を秘めている。

EDDとは

EDDとは、環境計量分析データを納品する際の電子フォーマットの総称をさす。具体的には、エクセルファイルのようなCSVファイルに、共通の項目をさす名称フォーマットが整理されており、各分析会社とコンサルティング・エンジニアリング会社、行政当局などが活用している。 米国だけでなく、欧州やオセアニア企業を中心に、環境分析データの電子納品が定着しており、これらの環境分析機関が、グローバル展開するエンジニアリング会社や石油会社の業務を実施することを通じて、アジア新興国やその他の地域でも大手分析会社が電子納品を進めている。

なぜ電子納品が求められてきたのか?

米国では、民間企業などが環境分析データの届出や許認可手続きの際に、提出されたデータを州政府などが確認し、承認する手続きも多い。法律で指定されている有害物質は1000種類以上あるため、提出される大量のデータを紙ベースや形式の異なるファイルでやりとりし、その後に正確に転記、統合するには膨大な手間がかかることになる。環境分析データを共通フォーマットで電子納品で受信することにより、省庁内でのデータ統合の手間を省略し、人件費、すなわち公的費用の支出を抑えることが可能になる。

さらに、事故や緊急事態において、電子フォーマットを毒物解析や医療の専門家などに共有する際や、気候データ、大気・水などその他のデータと組み合わせてリスク評価する場合にも、電子情報でなければ大量の解析を迅速に実施することは不可能である。後述するが、米国では水道や食品検査、テロや事故時の緊急時対応などの分野では、分析機関等が使用する電子フォーマットを整えている。

こうした効果は民間企業でも顕著である。民間企業が、依頼した分析結果を、過去数年前の他の分析機関が実施した分析値と比較する場合や、他のサイトの状況と比較する場合などにも、紙による納品では誰かが転記や整理をする必要がでて、手間がかかることになる。これらの手間を省くだけでも事務作業の人件費が大幅に減るだけでなく、転記によるミスを防止することや元のデータがいつでも素早く社内で・確認できるというメリットにつながり、管理者のガバナンスの透明化にもつながる。

一方、日本国内では顧客との受注ベースにエクセルシートなどを作成するなど、個別に手作業で数値データを整理することが多く、化学物質の排出管理(PRTR)や一部の企業を除いて電子報告や納品は進んでいない。

環境データの電子報告義務化の動き

このように米国では環境計量分析の分野で、10数年以上前から、EDDと呼ばれる電子納品用のファイルが開発されてきた。実際に、米国の環境保護庁(United States Environmental Protection Agency, USEPA)及び管轄地域の州環境保護庁(State EPA他)では、環境関連の様々な分野でデータ確認をするために、フォーマットを定めて、電子データの納品を義務付けている。これらを共有するソフトウエアなどを活用して、データを統合し、迅速にデータを分析・公開する実務が定着している。

例えば米国西部のカリフォルニア州や東部のニュージャージー州では、土壌汚染サイトの分析データを、州のデータベース上にインターネットを通じて電子ファイルで納品することを義務付けている。またミシガン州では、工場など施設からの廃水データや地下水のモニタリングデータを電子納品させる環境品質部 電子環境報告システムの活用を義務付けている。

これらの環境データの電子報告義務化の動きは一部の先進的な州の動きにとどまらない。連邦政府のUSEPAにおいて、土壌・地下水、化学物質、大気、水、廃棄物他各種分野で進められており、今後制定される新たなルールにおいてはすべて電子納品を義務づける方針を打ち出している。

この背景には、 2011年にオバマ大統領が発行した大統領令に基づき、環境保護庁全体の政策方針として2016年までに進めている環境分野の規制改革方針があるためである。

次回は、オバマ政権の環境規制改革における環境データの電子化について紹介したい。

G8オープンデータ憲章(2013年6月合意)における5原則

  1. 原則としてのオープンデータ
  2. 質と量 :時宜を得た、包括的かつ正確な質の高いオープンデータを公表する。
  3. すべての者が利用できる
  4. ガバナンス改善のためのデータの公表 :データ収集や公表の過程の透明性を確保
  5. 技術革新のためのデータの公表 :商業利用も含めデータの利用を普及、機械判読が容易な形式で公表
出所:首相官邸“G8サミットにおけるオープンデータに関する合意事項(英文・仮訳)”2013年 image1 出所:各種資料より株式会社FINEV作成

本稿は、(社)日本環境測定分析協会「環境と測定技術」2013年10月号に掲載された内容を同誌の承諾を得て一部編集して掲載しています。