米国や欧州を本拠地に置くグローバル企業では、世界各地の環境分析データ、環境法令のコンプライアンスデータを、EDDを活用しながらクラウド上で管理する仕組みを10年前から活用している。
この背景には、米国における上場企業に環境対策費の計上を求める米国会計基準と厳しい法令違反の罰則があるためであり、有害物質を使用する多くの拠点を持つ石油化学エネルギー関連企業は、特に環境情報のIT化が進んでいる。
多国籍企業に対して環境調査や分析を実施するエンジニアリング企業、コンサルティング会社やグローバル展開を進める分析会社でも、多国籍企業の管理体制に沿ったサービスを展開するようになっている。
例えば、米国の自動車メーカーが保有する世界30か国・180カ所を超える製造施設の環境調査を請け負ったコンサルティング会社では、各地域の調査結果や報告書をインターネット上で閲覧できるソフトウエアを活用しており、認証を受けた顧客企業の担当者は、どこでもインターネットのアクセスさえあれば、最新のデータを確認できるようになっている。
顧客企業が本社での財務報告やCSR報告を作成するだけでなく、各拠点の法令遵守の確認や管理実態を比較検証しながらよりすぐれた管理、すなわちベストプラクティスを迅速にグループ全体に広げることも可能になる。
世界の拠点での環境コンプライアンスと会計対応
米国では1990年代後半から、上場企業が浄化責任を課された場合や訴訟になっている環境対策について、その有無、将来支出する費用について財務諸表に開示することが義務付けられている。日本では、2010年に国際会計基準との収斂(コンバージェンス)によって上場企業等に適用されることになった「資産除去債務に関する会計基準」及び同適用指針において、石綿を含む建材等の除去費用が環境債務(将来支出する環境対策費)として計上されているが、米国ではこれとは別に、土壌汚染・地下水汚染に関する将来費用を、債務として認識し、計上することを定める会計基準が適用されている。
土壌汚染の対策費は、汚染状況によって大きく異なるが、その汚染状況を確認し、法律上の手続きの根拠として管理するうえで、各拠点等においける環境分析結果は重要な資料となる。数十の製造拠点や、数百・数千に上る小売拠点を保有するエネルギー関連企業や小売チェーン、化学メーカーなどでは、各拠点の法令順守データ、そこでかかる費用等をすべて一元的な仕組みで取りまとめ、本社で管理すると共に、将来支出する対策費を、会計基準に沿って整理し、投資家に開示しなければならない。
また各州や地域によって異なる環境法令の届出データも管理する必要がある。こうした手続きにおいて、書面や異なった形式のファイルでは、データの統合や整理だけで膨大な時間がかかる。このため、石油、電力、ガス、化学等の各社では、自社内及び法令上必要なデータを自社独自のフォーマットとして整備し、発注先企業にそのフォーマットに沿って提出することを求めている。
これらの企業の取引先となる分析会社は、各社が求めるフォーマットに沿ってインターネット上からデータを提出する。米国では、これらの提出データをさらに第三者である民間企業が認証する手続きが取られる場合もある。
分析会社のサービスとしての電子データ
こうした大手グローバル企業の取組、また環境保護庁(EPA)などによる届出や提出書面の電子化の動きに沿い、これらの企業や官公庁と取引のあるエンジニアリング企業(日本での建設業や環境コンサルティング企業)などでも、EDDを活用した独自のサービスを展開しているところも多い。この15年間で、アメリカの環境エンジニアリング企業ではトップにある大手企業のシェアが拡大しており、全米及び世界各地でグローバル企業を顧客とする業務に取り組んでいる。
現地の分析会社や請負会社の業務を取りまとめて管理しなければならず、その状況を顧客に報告する際に、インターネット上でセキュリティ管理されたクラウド型のシステムを活用し、顧客がいつでもどこでもデータにアクセスできるような環境を整えている。分析結果に加え、拠点の建設関連書面など大量の書面やデータを整理するうえで、電子データは不可欠になっている。
多国籍でサービスを展開する分析会社は、こうしたグローバル企業や多国籍企業に対して、Webを通じてどこでも結果が閲覧できるようなインターネットサービスも展開している。多国籍企業の企業や組織の管理者や責任者は、出張や移動も多いため、インターネット上の特定サイトから分析結果が確認できるサービスの利便性は高い。分析結果に基づき、適切な指示を迅速に出すことが可能になるためである。
複数拠点における環境データの一元管理は、効率化や正確性を担保するだけでなく、データの信頼性、組織管理におけるガバナンスや透明性の向上にもつなげることができる。
長年業務に熟知した担当者や専門職の経験知の重要性は言うまでもないが、それらの知見を組織として共有していきながら、より進化した管理体制をつくることが重要になるだろう。