海外環境デューデリジェンス

2014年1月

海外事業の拡充に伴い、海外拠点の施設管理、環境や労働面でのリスク管理も、経営の重要事項となっている。新興国においては環境法制化が活発になり、土壌汚染対策に関する法制化も近年急速に進んでいる。このため、10年前には特に問題のなかった土壌・地下水汚染への対応が必要になっている。

海外と国内における土壌汚染法制度の相違

すでに海外拠点を多く保有する企業の環境部や海外事業部では、経験済みのことと思われるが、日本国内の土壌汚染法制度は、海外の土壌汚染法制度と大きく異なっている。
図表にまとめたように、対象物質数や、浄化基準の考え方に加え、行政への届出や報告義務の範囲が日本より幅広い。
具体的には、日本国内では法律の対象となる土壌汚染調査や浄化が、市場で実施されている全体量の1‐2割程度にとどまっており、それ以外の自主調査や浄化活動にはなんら報告・届出義務が課されていない。一方、米国、欧州をはじめ近年法制化が進んでいるアジア、南米その他の地域では、工場の閉鎖や売買時の調査義務、調査を実施して環境基準を超過している場合の行政への届け出義務、浄化設計や浄化完了時の行政認可等の手続きが行われる。化学物質等を使用する業種や土地利用用途をリスト化し、それらの一つに該当すれば、調査義務を課すケースも多くなっている。

閉鎖や所有権の移転時において、行政への届出や調査義務があるかどうかをあらかじめ調査し、法制度に沿った調査や届出を行う必要がある。

留意すべき点:個別法がなくても訴訟あり

さらに、個別法がない国や地域においても留意が必要である。通常、環境基本法など基盤となる法制度が制定されており、この中で、一般的な汚染防止の規定として、土地や水域への環境汚染の禁止や原状回復義務、罰則規定などが規定されている場合が多い。このため、汚染が発覚した際の訴訟においては過去の所有者等が責任を課されるケースもある。
個別法がないインドやフィリピン、マレーシアなどおいても国内外の大企業では環境調査を実施することが慣例となっている。

海外における環境デューデリジェンス(ASTMがデファクト化)

2013年11月には、世界的に普及しているASTM(米国材料検査協会) E1527シリーズが8年ぶりに改訂され、13年版が発行された。国内の土壌汚染書類調査と異なり、ASTMの基準では、対象地だけでなく、周辺における環境リスクを調査することが求められる。また、隣地の政府記録調査や揮発性物質の汚染についても調査項目が拡充された。 ASTMでは、調査の発注者であるユーザ側の責任が明記されており、取引価格が著しく低額でないか、土地の利用条件が設定されていないか等を確認することも必要になる。国内の土壌汚染問題とリスクの責任や対象範囲も異なるため、海外拠点での土壌汚染対策においては、調査時点から受託者と緊密な情報共有をし、地域の法制度やリスクを踏まえた、調査のスコープを決定し、対応の選択肢を見つけることも重要である。

環境管理のグローバル化

日本企業の連結財務諸表の対象となる海外拠点は増加している中、財務面以外の環境や労働・社会面の管理においてもグローバル化が求められる動きも活発だ。
2013年にはCSR報告書のガイドラインとなるグローバルレポーティングガイドライン(GRI) G4や、統合報告書のガイドラインも発行された。国際会計基準の適用ルールも徐々に明確になる方向である。大手上場企業では、財務報告と同様の範囲で環境管理を進めていくことが必須となってくると考えられる。

国内外でバランスのとれた環境管理体制、いわば“環境管理のグローバル化”は、ガバナンスとリスク管理の観点からも求められる。海外事業の拡大は日本企業全体の大きな流れであり、新規進出時に留まらず、現在ある海外拠点の情報を整理し、本社での管理が可能な体制を整えていく必要性がますます高まってくるだろう。

過去5年間でのアジア新興国・その他各国での法制化・実務ガイドライン動向
2006年・・・ 欧州各国で環境債務指令(ELD)の国別法制化
2009年・・・ シンガポール(汚染管理規則更新)
インドネシア(貴金属の汚染サイトの浄化規則)
中国(土壌汚染サイトの管理法案が公表)
2010年・・・ 日本(土壌汚染対策法改正)
台湾(土壌・地下水汚染浄化法改正)
ブラジル(土壌汚染対策法通過)
2011年・・・ 香港(土壌調査・浄化ガイドライン公表)
2012年・・・ イギリス(土壌汚染法令ガイド抜本改正)
タイ(土壌浄化ガイドライン案を公表)
2013年・・・ トルコ(土壌汚染管理規制が施行)
ASTM E1527-13発行
日米欧の土壌汚染規制の主な相違
  日本 アメリカ 欧州(西欧)
類似性を持つ国 タイ、台湾、マレーシア、シンガポール他 韓国、インド、シンガポール、香港他
対象物質 25物質 有害物質
(1000物質以上)
50〜100物質
浄化基準 一律(宅地) 利用制限有 (産業用等)
/利用制限無(住宅)
産業、商業、住宅、公園等、土地利用用途別に2〜4分類
浄化責任 土地所有者 所有者 操業者
その他協力者
汚染原因者(所有者、操業者等、国別に規定)
行政報告 法対象範囲は10%以下 行政報告義務 行政報告義務が大部分
土壌汚染登録簿 法対象のみ(数%) あり 多い
公的支援 ほとんどなし 比較的豊富(州別あり) 比較的豊富(国別)
各種資料及び知見をもとに(株)FINEV作成

※本稿は2014年1月に環境新聞に掲載された寄稿を、同社承諾のもと一部編集して掲載しています。