日本版EDDの検討に向けて

2013年1月

シェールガス開発に沸く米国では、関連する地下水や環境分析の需要が高まり、大手環境計量分析会社では、一社だけでこれまで40万サンプルを超える分析実績があるという。

これらの環境分析のデータは、データを生成する環境計量分析機関から、コンサルタント、建設会社、発注企業、行政機関など多数の関係者に共有され、さらにそれぞれの目的に沿って分析や時系列の表示、解析などが進められる。

米国では、これらの環境計量分析のデータを、関係者が正確かつ効率的に共有できるようにするための電子納品が定着しており、これをEDD(Electronic Data Deliverable)と呼んでいる。

EDDとは・・

EDDは、環境計量分析データの出し手と受け手が、簡単にデータを受領、加工、分析できる共通のデータ・ファイルであり、環境計量証明書に含まれる各種データやファイルが含まれる。多数の数値データに加え、分析対象となる物質名、単位、計量方法、サンプリングの採取日、採取場所、計量士、分析機関、証明書の発行日、発行機関など多数の定性的な情報に加え、地図やグラフなどが含まれるものもある。

地下水保全に関わるエンジニアや科学者などの集まりである連邦政府EPA(環境保護庁)の地下水フォーラムもEDDの活用を推奨しており、10年以上前から米国の土壌・地下水汚染分野で活用されている。州EPA、エネルギー省に加え、大手エネルギー会社や建設会社、環境コンサルティング会社などが、法令や自社に必要なデータセットをEDDとして指定しており、これらの組織とのデータのやり取りには、規定されたEDD形式で環境計量分析結果を提出しなければならない。

米国では次世代EDDへ

しかしながら、近年は各組織や企業でのEDDのカスタマイズが進み、規制当局や大手コンサルティング会社が個別に作成したEDDのフォーマットが100以上に増えている。このため、州や連邦政府、請負企業やコンサルタント、研究者などがデータを共有するため、個別にカスタマイズされたEDDを、データの段階別に共通化するプロジェクトが始められている。同プロジェクトには、環境保護庁だけでなく、主要な官民の分析機関、ユーザーである建設エンジニアリング会社などが参画している。

一方日本では、環境計量分析結果は、各社書式に基づく計量証明書と共に顧客の要望に応じて貼付する書面の報告書や一部エクセルファイルなどの納品が一般的となっており、一部Webベースで結果を閲覧できる無償サービスを提供している分析会社もある。

米国でのEDDの発展段階における経緯や課題を踏まえ、国内市場に根差したEDDの開発と普及の検討が始まっている。

国内の環境計量分析市場

国内の環境計量証明の事業規模は、主要顧客である製造業や建設工事の減少と共に微減を続けており、現在約2,000億円の市場規模であるといわれている。東日本大震災以降の放射性物質の測定や、がれきの大気・水環境の分析など一部に需要増があるものの、製造業の海外シフトに伴い、いわゆる環境公害分野の需要は中長期的にも先細りの状況にある。

こうした中、昨年は外資系企業によるM&Aや、異業種との資本提携など、大手及び準大手環境分析証明機関での経営戦略の多様化が見え始めており、事業の持続的な成長に向け各社経営層における事業戦略の検討が課題となっている。

進む環境データの電子化

実際に海外の環境計量分析事業では、大手事業者による事業拡大と最新設備の導入による経営合理化が進んでいる。また、近年では比較的安価なツールの普及や顧客企業の要請により、データの電子化も急速に進んできた。グローバル展開する欧米メジャーをはじめとする石油ガス・電力業界では、自社の環境マネジメントの管理データをグローバルに共有する枠組みが活用されており、取引をする環境エンジニアリング企業、建設会社、環境計量分析会社は、各社のフォーマットに沿った電子データを納品しなければならない。これに準じて、これらの企業を主要顧客とする環境コンサル・エンジニアリング会社でも、データ管理だけでなく、データの収集やリアルタイムの確認なども行い、業務フローの変革も進められている。

社内外に期待される活用効果

国内では環境関連のデータは、これまで書面やエクセルデータを入れたCDROMなどでデータを保管していたケースが大部分である。しかし、今後数年で工場の環境管理部門の退職が続き、また工場再編に伴う引継ぎなどを契機に、環境管理の外部委託やデータの電子化などが進められることになるだろう。

日本版EDD研究会に参加する㈱環境管理センターでは、現在検討を進めているEDDの活用を業界内で進めることによって“現在の組織形態のままで、業務やプロジェクトベースでの緩やかな連携がしやすくなる”と共に、”社内での業務効率が格段に向上し、お客様のリクエストにもお応えしやすくなる“として、ユーザーも含めた多くの企業への参加に期待している。

研究会では、海外でのEDD活用事例を紹介するとともに、国内の法令や業界慣行に応じた普及の枠組みを検討していく。

※本稿は環境新聞に掲載された記事について同社の承諾のもと、一部編集して掲載しています。