地域社会とCSR「法令順守の原点に返る」

2014年4月

企業の社会的責任(CSR)に関する取り組みが進められた当初、各企業ではCSRと法令順守の違いをどのように説明したらよいかという疑問が多く出された。

法律や規則、制度など、法律上求められる必要事項を遵守することは義務であるが、CSRとしての社会貢献や環境・社会面の活動を行う上で、その基盤となるものである。優れた地域貢献や環境対策等のCSRを実践していても、法令違反があれば組織の信頼性を損なうことになるため、定期的に法令順守の原点に返ることが重要になる。

しかしながら、頻繁に変更や追加される法令を遵守する体制を整備することはそれほど容易なものでもない。

日本には、法律や政令、省令、規則など、国全体の法制度の数は数千に上る。地方自治体の条例を加えると数万以上になる。これらの法制度は、毎年数多くの改正や追加が行われている。

各企業が実施する事業内容や保有する施設や設備等によって該当法令も異なっており、事業に直接関連する法制度以外にも、不定期に必要になる該当法令もある。CSRに直接関連する環境や労働関連の法制度にも、毎年多くの変更や改正が続いている。

例えば環境法では、対象となる有害物質の追加や環境基準値の変更、届出義務の追加などがある。定期的に報告しているエネルギー使用量などに対して、建物や構造物に含まれる可能性がある有害物質の調査等については、建物の解体や改築時に必要になるもので、数十年に一度行われるものであるが、施設を保有する企業の責務は増えている。

昨年は大気汚染防止法が改正された。建物解体時等に行われる石綿(アスベスト)調査では、これまで建設会社などが行っていた届出等について、発注者となる建物所有者等にも一定の責任が課されるようになった。施主である建物所有者が資料等の提供を行うことも努力義務も付けられており、今年度から適用される予定となっている。

企業や組織等では、こうした法令遵守としての対応として、社内での書面調査やチェックシートによる確認を行うが、この際、「法令に遵守している」「遵守していない」「わからない」といった3項目による選択形式が多い。制度をよく知っていて、取り組みが行われているのが理想であるが、制度をよく知らないことにより、遵守しているかどうか「わからない」ことは多くの実務現場で見受けられることである。

この場合、知らなかったことを責めるのではなく、組織として知らないことを共有できるカルチャーを作ると共に、それらを改善する仕組みを検討することが重要になるだろう。

昨今、経営の効率化や業務時間の短縮、電子メール等などの多用によって、同じ組織内でも対面によるコミュニケーションが希薄になっている。このため社員のそれぞれが自分の業務に直接関係しない、間接的な業務に対する関心や知識が少なくなっている傾向もある。社内研修やOJTでは、講師を持ち回りにして自分の業務に係る法制度の変更や業務の紹介をする機会をつくることも一案である。コミュニケーションの機会を増やして、組織内の業務を相互に知ることにより、組織の知識レベルの向上だけでなく、法令遵守にも役立つことになろう。

*本稿は、2014年4月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。