オリンピック大会とサステナビリティ

2015年3月

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催まであと約5年となり、着々と準備が進められている。

2020年大会では、最新技術を活用した、成熟社会の東京として未来に引き継ぐ大会というコンセプトを出しており、大会運営における持続可能性や環境保全は積極的に進められることであろう。

オリンピック大会における環境への配慮としては、2012年にイギリスのロンドンで開催されたロンドンオリンピックが有名である。大会史上“最もグリーン”なオリンピックゲームとして成功裏に終了した会場地域は、現在、エリザベス女王オリンピック公園として再生されている。大会会場となった地域は、150年にわたり産業用の廃水処理場や老朽化した建物や施設が残された地域であったが、短期間にイギリス内外の様々な技術を用いて土壌や水の浄化を行い、生態系を保持しながら、地域を再生させた。

同様の取組は、すでに2010年のカナダ・バンクーバーで行われた冬季オリンピックで進められている。オリンピック大会で初めて環境保全と持続可能性の概念を大きく取り上げ、主要施設の建設地の環境対策を進め、建物の省エネや生態系の保全などに積極的な取組が行われた。

2020年の大会に向けて、環境省では昨年8月にオリンピック・パラリンピック大会を契機とした環境配慮の推進に関する方針を公表した。大会そのものが「循環共生型社会」を実現するものとすると同時に、日本の環境技術を積極的に活用する情報発信の場とすることが記されている。

特に低炭素化については、大会関連施設の建設から廃棄に至るまでの低炭素化を目指すとしている。日本の建物等の省エネルギーや低炭素化の技術は海外でも特許等の取得が多く、今後、国内だけでなく海外での普及も期待されるものである。一方、都内及び近郊各地で進められる再開発や大規模建設プロジェクトで対応が求められる搬出土壌の保管や運搬や汚染対策などには、低炭素化や他の環境負荷を総合的に考慮する枠組みは積極的に組み入れられていない。これまでの法制化の経緯から、環境法令において大気、エネルギー、汚染対策等の個別分野での規制や取り組みが進められており、総合的な環境負荷の配慮を踏まえた制度はまだ限定的となっている。

さらに、環境対策等を進める上で、経済的な視点の考慮も重要になってくるであろう。大会運営において、比較的限られた収入の中で、費用をできるだけ抑えながら、将来的に開催地の魅力を高め、長期的な経済効果を生み出していくことが重要であるといわれている。環境保全や持続可能性を高める技術を国内外に普及させるうえでも経済性の配慮は不可欠な要素である。

2020年大会の成功とその後の魅力的なレガシーの継承に向けて、持続可能性や環境保全の方針においてもこれまで組み入れられていなかった新たな制度や枠組みが導入されることも期待されよう。

*本稿は、2015年3月に通信新聞に掲載された内容を、同社承諾のもと一部編集して転載しています。