アメリカの環境分析市場 … 活発な市場再編と顧客対応に向けた継続的な生産性向上

2013年2月

米国の環境分析市場

日本と同様に、米国の環境計量分析市場でもこの数年市場の低迷が続いている。1980年代に環境市場の成長と共に年間20%を超える高成長を続けていたが、90年代以降成長が鈍化し、市場規模が2200億円に達したピーク時よりも市場が2割程度縮小するなど、マイナス成長が続いた。その後、2000年以降は微成長が続き、例外的な年を除き、平均して2-4%の成長となっており、米国内の環境ビジネス市場では低成長業界と位置付けられている。

米国市場への外資参入が再び

米国には大小合わせて環境分析を行う企業は約6000社あるといわれるが、このうちトップ50社が市場の約6割を占めているといわれている。2011年はこれらの上位企業の再編が活発であり、特にこの数年欧州やオセアニアの外資企業が米国市場に参入している。2012年に日本環境を買収したユーロフィングループは、2011年に米国東部の大手計量分析会社を高額で買収しているほか、同年にオーストラリアを基盤とするALSグループも東部の環境分析会社を買収し、米国のトップ20の企業となった。いずれも地理的なカバー範囲を広げることが大きな目的の一つであるといわれている。

持続する安定的な市場

環境計量分析の市場は、急成長をしないまでも安定的で継続的な需要が見込まれる分野であり、今後世界的にも環境分析の需要は継続的に増加していくことが予想されている。過去から蓄積された汚染の浄化は今後も継続する見込みであり、新たなエネルギー開発や技術開発に伴う環境分析の需要増もある。さらにハリケーンカトリーナのような自然災害や、突発的なメキシコ湾の海底事故など、環境モニタリングを必要とする事象や事故が断続的に起きているためである。

また新興国をはじめとして環境法制の強化に伴い、大気・水・土壌など各種環境分析市場が生まれている。経済活動に伴う様々な化学物質やエネルギーの使用により、環境分析の需要は底堅いといえる。

高まる期待レベル:質と時間

一方で、環境分析に対する顧客からのサービスレベルの期待はより高まってきている。

米国の環境分析市場は、大きく顧客セグメントとして官公庁、民間企業、環境コンサル・エンジニアリング企業に3分類される。このうち需要の約半分を占める環境コンサル・エンジニアリング企業は、主に汚染浄化や廃棄物関連の市場である。

汚染調査や浄化工事の業務では、平均して浄化工事の約1割が環境分析業務にあてられるといわれている。米国の環境浄化市場は1兆円前後であることを考えると、このうち1000億円前後が環境分析業務にあたる。90年代には、これらの大手コンサル・エンジニアリング企業が、環境分析企業を自社グループ内に保有するケースもあったが、各社の戦略上の理由から切り離しているケースが多く、現在では、環境分析関連企業の主要顧客となっており、今後も当面はこの傾向は変わらないといわれている。

環境コンサル・エンジニアリング企業は、主要顧客である石油・ガス、化学関連企業などの要請もあり、工事においては正確なデータを迅速に提供する方向となっているため、環境分析企業にも、迅速で信頼性の高いデータの提供を求めている。

正確で迅速なサービスが生き残りの決め手

主要顧客の求める“信頼性の高いデータ”を“迅速かつ正確に”提示するため、上位企業では業務効率を高める技術やIT投資を継続的に実施して生産性を高めているという。具体的には、顧客への分析結果をより短時間で提供するための業務プロセスの自動化、報告書及びその他のデータ提供の標準化、内部の業務プロセスの効率化、顧客との対話や分析センター間の連携の簡素化や円滑化などが取り組まれている。

アウトプットとして定着している電子報告(EDD)は、ユーザー別に乱立したEDDを段階別に4種類に分けて共有化するプロジェクトが進められ、大手環境分析会社とユーザーなど計30社以上が参加している。

しかし、内部の業務効率の向上だけでなく、顧客との関係強化につながるサービスを強化する企業がWebベースの枠組みを構築する動きもある。

おわりに

こうして米国の環境分析市場をみると、法制度やビジネス慣行の違いからいくつの相違はあるものの、日本国内の環境分析市場との多くの類似性がみられることに驚くだろう。国内環境分析大手企業の幹部は、日本市場は米国に比べてIT投資が10年程度遅れていると表現していた。先進市場を追うのではなく、そこでの教訓や知見を踏まえた新たな展開を図ることが成長の新たなステージへの一歩となるだろう。

参考資料:Environmental Business International社レポート及びEnvironmental Laboratory Washington Report2011/2012等

※本稿は環境新聞に掲載された記事について同社の承諾のもと、一部編集して掲載しています。