成長余地が大きいアジアのESG投資
ESGに配慮した責任投資は、世界全体で13.6兆ドル(約1300兆円)に達しており、投資基金全体の約21%を占めるようになっている。しかしながら、日本を含むアジアは全体の0.6%を占めるに留まっており、欧州が65%、米国が28%と9割以上が欧米地域になっている。
アジア企業内では断トツの日本企業
世界全体の今後の人口増加の過半を占めるアジア地域は、環境や社会に配慮した企業を後押しする責任投資の重要性が最も高い地域であるが、“簡単にアクセスできる情報が少ない”という課題も指摘されており、情報開示が相対的に進んでいる日本企業がSRIファンドに組み入れられているケースが多い。
投資調査会社であるIPREO社のAsian SRI Leaders Report(2013年冬)のデータによると、アジア企業でのSRIファンドに組み入れられている上位100社のうち7割以上を日本企業が占める。また、上位10社のうち8社は日本企業であり、トップはJR東日本で113のSRIファンドに、2位の栗田工業は100のファンドに組み入れられている。これらの企業は、世界全体のSRI組入れ数の上位100社にも含まれているが、世界では100以上のSRIファンドに組み入れられている企業が約70社あり、トップ3を占める欧州企業はいずれも200を超えるSRIファンドが保有している。
開示推奨の政策と企業の開示方針や動向
一方、日本以外のアジア地域では、上場企業への情報開示を促す政策や規制の動きが進んできている。シンガポールや香港では、証券取引所から上場会社に対するESGの情報の開示に関するガイドラインが発行されているほか、昨年はインドでも上場企業上位100社へESG情報の義務付けを行う方針が示されている。
しかしながら、2013年3月末に開催されたアジア責任投資会議2013では、シンガポールではESG開示ガイドラインを公表後も上場企業のESG開示状況に大きな変化はなく、まだ開示方針がない上場企業が2割近くあるとして、引き続き取り組みが必要だという認識が示された。
実際に投資判断の際に先方企業へのヒヤリングを行うヘッジファンドやプライベート・エクイティなどでは、独自にESG情報をデータベースとして構築するような動きがあるものの、投資対象となるアジアの企業に対して環境や労働などの質問をしても、企業の財務責任者にはまだその問題意識が低いことが少なくないという。
特に、短期的な利益との相関がみられる企業のガバナンス(企業統治)に対して、社会・労働面や環境パフォーマンスは収益へとの相関関係が相対的に長期であることも指摘されており、自主的な情報開示には時間がかかりそうであるという認識もされている。
米国や欧州の責任投資は継続的に拡大
アメリカや欧州では、ESGに配慮した責任投資は着実に増加しており、新たにヘッジファンドや非営利組織、プライベート・エクイティなどからの関心も続いているという。この背景として、環境や社会・労働、ガバナンスに関する要素が、投資先の収益に与える影響が重要なものになってきている(Material)であるうえ、中長期の投資において、法制化の可能性や市場拡大に向けた可能性がより明確になってきているためとしている。特に、環境については、再生可能エネルギーや環境技術、グリーンビルディングやインフラについても市場拡大が見込めることから、これらの環境ビジネスの収益性を評価する投資家も増えてきている。
また、中長期の投資において比較的安定的という見方から、上場株式だけでなく、不動産や商品先物、インフラなど現物のものへの投資割合を増やしているという意見もあった。不動産の環境配慮や商品のサプライチェーンのESG評価を相互に推進する動きとなるだろう。
建物からインフラにも広がるグリーン格付
建物の環境配慮を進めるグリーンビルディング認証は国内外で進んでいるが、建物だけでなく、社会資本(インフラ)の様々な構築物を環境や持続可能性の観点から格付けする動きがアメリカで進められている。
米国土木学会、米国エンジニアリング企業協会、米国公共事業協会が設立した“インスティテュート・フォー・サステナブル・インフラストラクチャー(持続可能な社会資本研究所)”は、ハーバード大学と大手エンジニアリング企業が実施している持続可能なインフラ推進プログラム“Zofnass”と戦略提携し、昨年“Envision”と呼ばれるインフラの環境配慮を格付けする仕組みを始めた。
このEnvisionは5分類60項目のチェックリストで、インフラ構築物をブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと、LEEDと同様に4段階に評価する。
政策との連動により官民連携でグリーン・インフラ整備拡充へ
この仕組みが、税制優遇などと連動されれば、荒廃するインフラ再構築における公共事業において民間投資にも活用され、グリーンビルディングと同様に高い格付けを得た環境配慮型の土木構築物へ民間投資も促進される可能性もある。
シンガポールで都市開発を進めるCity Developments Ltd.はシンガポール政府が進めるグリーンマーク(グリーンビルディング認証)の政策を背景に、建設コストの2
5%を環境対策費用等にあて、グリーンビルディング開発を進めている。同社は事業を通じて自社のCSRを進め、国内外でCSR面でも高い評価を得ている。
※本稿は2013年4月に環境新聞に掲載された寄稿を、同社承諾のもと一部編集して掲載しています。