金融機関への気候変動に関するストレステストがもたらす影響

日本でも主要金融機関への気候変動リスクの健全性評価をする予定であるとの報道があるが、欧州では実施に向けた準備が進んでいる。

欧州中央銀行(European Central Bank, ECB)は、2020年11月に金融機関の気候関連及び環境リスクの取組と情報開示に関する現状のレポートと、ガイドを公表した。

現段階で、十分な取り組みや開示が進んでいる金融機関は数行にととどまっている。このため、公表したガイドをもとに主要金融機関は、2021年早期に自主テストを実施をし、2022年からECBで始まる気候関連及び環境リスクに関する取組に関する評価、いわゆるストレステストの準備をするように促している。すでに実施したオランダや21年に実施予定の英国に続くスケジュールとなっている。

このガイドでは、気候変動と環境に関して、「物理的リスク(Physical Risk)」と「移行リスク(Transition Risk)」に分けて信用リスクや市場リスク、オペレーションリスク等を評価することとしている。

「物理的リスク」は、気候関連リスクとして、甚大化する気象や慢性化する気候パターンなどを、「環境リスク」として水ストレス、資源の不足、生物多様性の消失、汚染などを挙げている。

さらに、「移行リスク」については、気候関連・環境リスクに対応して社会的な枠組みの変換に伴う経済的なリスク等を評価することとしている。今後、化石燃料の使用が減る方向となり、様々な業界で、大きな変革がおこることを想定し、そのリスクを認識することを求めている。

金融機関の環境リスクとしては、古くは担保評価の対象となる土地の環境リスクとして土壌汚染のリスクを組み入れる取り組みがある。米国や西欧では1990年代前後から始まり、日本でも2000年代後半から取り組みが進められた。金融機関によるこうしたリスク管理は、土地取引や不動産評価においても土壌汚染に関するリスク管理を促すうえで重要な役割を果たしてきた。今回の金融機関における気候変動と環境リスクの取組は、今後ひろく産業界にその取り組みを促す役割を果たすことになるであろう。

すでに、海外では土壌汚染に関しても、気候変動に関するリスクを加味して評価する必要性が提起されている。これは、浄化方法におけるCO2削減という狭義のものではなく、汚染地における気候変動のリスクを評価し、対応するというものだ。昨年、米国会計検査院は、連邦法である通称スーパーファンド法のもとで登録された汚染地の6割以上で、洪水や暴風雨等の気候変動リスクにより、周辺へ有害物質等が拡散し、健康影響がでるリスクなどが高まっているという調査結果を公表した。日本国内でも、大型台風等により、工場敷地から保管していた燃料や資材が流出し、近隣への影響が出たケースもあるが、気候変動リスクを踏まえて、従来からある環境リスクもより重層的なリスク管理が必要な時代となっている。

(参考)気候関連と環境リスク要因の例

物理的リスク 移行リスク
気候関連 環境関連 気候関連 環境関連
  • 異常気象
  • 繰り返される気候パターン
  • 水ストレス
  • 資源枯渇
  • 生物多様性の消失
  • 汚染
  • その他
  • 政策や規制
  • 技術
  • 市場動向
  • 政策や規制
  • 技術
  • 市場動向

欧州中央銀行:気候関連・環境リスクに関するガイド(2020)より一部引用

*本稿は、環境新聞(2020年12月16日)に掲載されました。