住宅の省エネ化における補助金などの公的支援は国内外で一般的な政策ですが、米国で今月初めに上院に再提出された法案では、直接的には税金投入ではなく、住宅ローンの評価の手続きに電気代などエネルギー支出の情報を考慮することを求めることを通じて、市場での評価を促す仕組みを作っていくことを目指しているようです。
省エネ住宅の推進に向けた法律;Sensible Accounting to Value Energy Act (The SAVE Act)は、住宅ローン評価のガイドラインを管轄している住宅都市開発省(Department of Housing and Urban Development, HUD)に、以下の3つの要素を含め、住宅のエネルギー報告の提出を推奨する新たなガイドラインを発行することなどを規定する法案となっています。
①金融機関が、期待されるエネルギー費用の削減分を、その他の支出から控除し、借り手の返済能力を評価する際に組み入れること
②期待されるエネルギー費用の削減分は、現在価値として評価すること
③金融機関は、省エネ住宅のコストと便益を住宅ローンの申込者に提示すること
法案及び関連情報はこちらにまとめられています。
アメリカでは平均的な住宅の電気代等(エネルギー費用)は約2,500ドル(25万円)ということですが、断熱などの省エネ投資を実施することで、長期にわたる電気代が減り、それによって、収入に対する相対的な支出が減るため住宅ローンの返済能力が高まるとして、この電気代等の情報を融資の際に評価に盛り込むことを提案しています。今回提出された法案では、住宅ローン引受評価の時に義務付けられるものではなく、住宅のエネルギー報告を提出するかどうかは、ローンの申し込みの段階で決められるオプションとなっているようです。法案は、HUDの住宅ローンの住宅評価に添付する鑑定評価書を作成する不動産鑑定士の業界団体:全米鑑定協会のほか、不動産業協会、商工会議所、グリーンビルディング・カウンシルなど30以上の組織に支援されています。
これだけの関連団体が支援していることを考えると、法案によって省エネ住宅や関連サービスなどの成長がかなり見込めるなどのビジネス上のメリットもあるのではないかと推察されます。
実際に、HUDの融資保証は、米国内の住宅ローンの約9割をカバーしているということで、 この法案によって新築の省エネ住宅や関連技術などが大きく成長するという効果が示されています。また、省エネ住宅の住宅ローンはデフォルトリスクが3割程度低いという調査結果もあり、住宅ローンの健全化も進められるほか、省エネ投資の普及による家庭の電気代の削減効果は、2020年に1,000億円以上になると試算されています。これらの政策推進に伴い、省エネによるコスト削減効果の見える化も可能になってくるでしょう。
確かに、支出のなかでも比較的固定費である電気・ガス代などの光熱費は、もし削減できれば確実な削減が期待できる経費ともいえるのかもしれません。実際、法人向けサービスとして定着しているESCOは、省エネ設備導入の初期投資を、3-7年程度にわたって電気代金等の削減分から支払う仕組みですので、この法案は、ESCOの個人版サービスを、超長期の住宅ローンの評価の枠組みに応用した仕組みともいえるのではないでしょうか。
ただ、電気やガス代そのものも長期間に変動する可能性があるので、削減分が必ずしも実現するものではありませんが、同様の住宅で省エネ機能を有する住宅と、省エネ機能がない住宅では、電気代などが変わってくることは明らかなので、光熱費の支出減につながるといえるでしょう。
日本では、住宅エコポイントや住宅金融支援機構がローン設定時の住宅の技術的な基準を規定するフラット35の省エネ基準などがあり、省エネ住宅普及政策はありますが、長期の省エネ効果や費用の削減効果などの検証、また新たな技術・サービスの活用の意味でも、上記法案はより裾野の大きい政策といえそうです。
SRI(社会的責任投資)なども普及しているアメリカの環境金融に、住宅の省エネ費用や効果の統計データが含まれるようになると、より強固な情報インフラもできるのではないかと思われます。SAVE Actはまだ提出されたばかりの法案ですが、制定するか注目です。